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基礎サイエンスの重要性をいかにして伝えていくか

大学院時代に素粒子の実験に関わっていた横山先生。その過程で、あの「スーパーカミオカンデ」に関わっていたこともあります。素粒子研究は、基礎サイエンスの世界です。すぐに応用が利くものではありません。横山先生は、この基礎サイエンスの未来を考え、社会とどのように情報を共有していくべきかを日々考えています。

「学問は、それだけで価値があるものだと思います。つまり、知らなかったことを知ることができる、深いことを知る手応えは格別なことであり、選ばれた研究者しか経験することができません。私は研究者としてその脇にいて、自然の神秘の深淵をのぞきこみ、その中に入っていくことのすばらしさを知りました。宇宙が無の状態から生まれる、宇宙から子供の宇宙が生まれる……そういった可能性を知るだけでも、人生がより“深く”なるのです。天動説から地動説になって世界観がかわったように、ものの見方や考え方を知ることで物事を深く知ることができます。それを支えているのが、基礎科学なのです。」

しかし、基礎サイエンスは社会とその夢を共有してこそ進展すると横山先生は話します。基礎サイエンスは、今すぐに何かに応用ができて、お金を生み出すようなものではありません。だからこそ、社会の応援が必要なのです。

「冷戦時代は、世界的に科学がすごい勢いで発展したのです。大国は軍事費を膨大につぎ込み、国威発揚や軍事的な目的から研究を進めていました。ところが冷戦が崩壊すると、当然のことではありますが、経済が主導する科学に重点がおかれるようになったのです。その結果、どうしても「出口」がはっきりしている応用指向が強くなり、自由な発想とゆとりがないとできない基礎科学はおされぎみです。」

ノーベル賞を受賞する研究成果も、応用を目指して行ったものではなく、研究者の自由な発想にまかせて行われた研究が発展しています。研究には少しの“ゆとり”が必要です。

「研究者は社会と情報を共有する必要があります。国が認めるだけではなく、国民が共に基礎科学に夢をもつ社会にならないと、国は発展していきません。科学コミュニケーションによって、知の喜びをきちんと社会に伝え社会と共有することで、多くの人に研究活動の意義を理解してもらい、若者に興味を持ってもらう。そのための情報発信を、しっかりやっていかなくてはなりません。」

つまり、研究者がサイエンスの未来を考え、社会と共有する。そのために、研究者が科学コミュニケーションを考えることが必要になってくるというわけです。

スーパーカミオカンデで得た経験

横山先生とサイエンスとの関わりに大きな影響を与えたのが、東京理科大学の大学院時代に参加していた素粒子実験です。150人のチームで行われた国際実験、通称「K2K」のメンバーとして、1999年からの5年間、つくばの「高エネルギー加速器研究機構」に常駐されていました。

K2K実験メンバーの集合写真
中央 戸塚洋二先生 左前方 横山広美先生
「写真提供:K2K実験グループ」

「高エネルギー加速器研究機構からスーパーカミオカンデに向けてニュートリノを飛ばし、その性質がどのように変化するのかを確かめる実験でした。この実験に関わることで、人類に大きな意義のある基礎サイエンスの研究を、どのように進めていくのか、知ることができました。そして、世界規模で科学の進展を考えることが大事なのだと学びました。」

しかし2001年、スーパーカミオカンデで事故が起きたのです。「スーパーカミオカンデは、水の中にガラス製のセンサー(光電子増倍管)が入っているのですが、ひとつが壊れたことで衝撃波が生じ次々とセンサーが壊れていったのです。11000本あるセンサーのうち、約6000本が壊れてしまいました。この事故が起きたことがわかったとき、これからのニュートリノ物理がどうなってしまうのか非常に不安でした。」

このとき、実験のリーダーであった東京大学宇宙線研究所所長・戸塚洋二先生のとった行動は、横山先生の「科学コミュニケーション観」に大きな影響を与えました。

「事故の起こった翌日、皆が強いショックを受けていましたが、そんな中、戸塚洋二先生はすべての研究メンバーにメールを送りました。そこには、我々は何としてでも実験施設を再建するという強いメッセージがあり、そのための戦略もしっかり書かれていたのです。まずは進行中のK2K実験で成果を出さねばならないが、それには残ったセンサーを半分の密度で付け直すことで対応できる。そうすることで、1年以内には再建を完了し、何としてでも学問を継続するのだ、というのです。トップがそういうことを言うと、研究者の間に“よし、やるぞ!”というまとまりができます。末端の学生ながら、感銘しました。」

さらに戸塚先生は、徹底した情報公開を行いました。

「戸塚先生は、メディアに対しても情報開示をしました。事故の日の夜には、新聞社のWebに一報が掲載されました。隠すこと無くすべてを公開し、社会に対して誠意ある態度を示された。そしてその中で、物理をやっていくという固い意志を明快に示したのです。学問をしなければいけないという強い意志、エッジを切り開いて行くことへの誇りと意気込みを、社会に伝えてくださいました。こうした経験を通じて、私は、研究者が社会に対してどうあるべきか、そして、サイエンスをやるとはどういうことかを学びました。当然のことながら、研究者は研究に人生をかけています。今すぐ何かに役立つわけではないのにです。学問は、それだけで価値があるということを改めて知りました。そして、こうした基礎科学力は私たちが予想だにしなかった世界を展開すると共に、人類が生存をかけた危機に直面したときに必ずや私たちを救うと思っています。」

横山先生は、戸塚先生の行動を通じ、学問を進めるという研究者の強固な意志を目のあたりにしました。その意志こそが研究者の果たすべき社会的責任であり、社会へのコミュニケーションはその責任を果たすために不可欠であることを、横山先生は体感しました。

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