Adobe Japan Education Vanguards (高等教育機関教員向けコミュニティ)

アイデアの組み合わせが価値を生む

IT時代の到来を肌で感じ、帰国。その後、約10年の国内勤務を経て退職。その間、博士号を取得し、現在は大学で情報工学を教えつつ、ベンチャー企業の発起人として経営も手がけるという、日本の技術者とは一風変わった、先進的なライフスタイルを築いています。

これまでに携わった研究は、P2P(Peer to peer)型ネットワークの技術開発、e-learningシステム開発、e-learningのためのコンテンツ・ディレクター、ITによるまちづくりプロジェクトなど多彩です。

中でも「WEB-COM」は、教育者としての米倉先生自身の悩みがきっかけとなって生み出された、ウェブコンテンツ作成プログラムです。

WEB-COMはあらかじめ作成したコンテンツの上に、ウェブ上から手書き注釈や音声がつけられるもので、どこにいてもコンテンツの変更が短時間でできるようになっています。

「講演などで地方に出かけたとき、次の日に大学の講義で使うコンテンツをちょっと変えたいな、と思いつくことがよくあるんですね。そんなときに既存のコンテンツ作成用ソフトを使って調整する時間はありませんから、だったら、ウェブ上で簡単にできないか、そう考えて作ったプログラムなんです。」

米倉先生の授業では、WEB-COMで作ったコンテンツで、プログラミングの関数やパラメータを解説します。重要な部分は手書きのアンダーラインで示したり、ポイント部分を丸で囲ったりして、手書きの要素を加えながら学生の理解を促しているといいます。

また文章の中で重要な専門用語にはリンクを張り、より詳しい情報までたどっていけるようにしてあります。

WEB-COMで作ったコンテンツはサーバーにアップされ、学生が復習をしたり、欠席した場合の自宅学習用に使うことができます。その時は、米倉先生が「復習用」「自宅学習用」などと、新たに別の手書き注釈や音声を追加していくこともできます。文字や画像の情報を1次コンテンツ、音声や手書きの注釈情報を2次コンテンツとして独立させてあるため、組み合わせは幾通りにもできます。授業で用いたコンテンツそのままではなく、e-learningをする学習者の立場に立った情報を付加できるというわけです。

「e-learning で学ぶ対象者や目的は大きく2つに分かれます。ひとつは学習意欲はあるが勉強する時間がなくできるだけ効率良く学びたいと考えている人。もうひとつは、時間はあるけれども学習意欲そのものを高める必要がある人です。この2種類の人達に同一のコンテンツで学びを促すことはできません。それぞれコンテンツやシステムを自在に変えることができなければ、意味がないのです。多くのビデオ型のe-learningコンテンツは、ここが見えていないため最大公約数的なものに傾きがちで、学習者だけでなく、教える側にとって非常に使いづらいものになっています。WEB-COMはそれを解決するプログラムです。特に音声や文字注釈などを含む2次コンテンツがウェブ上から自在に変えられるので、学ぶ人の目的に合った、作り手の意図が乗り移りやすいというメリットがあるのです。」

授業の一部は、他大学との連携単位として遠隔講義形式で行われる。"WEB COM"のアイデアも、講義をどうわかりやすくするかという悩みから生まれた

たとえば、プログラミングをまったく勉強したことのない人に教えるのなら、2次コンテンツの音声面でまず「つかみ」のある話を録音しておいて、学習者の注意をひきつけます。そして解説はペースを落として平易に話します。逆にプログラミングをできるだけ早く身につけたいという人に教えるのなら、面白い話など不要です。「どこが最も重要なポイントなのか」にだけ集中した講義を録音するほうがニーズに合致した講義といえるでしょう。また米倉先生が学外の人に「こんな授業をしています」と伝える場合には、プログラミング例を出しながら授業方法の概要を説明する話を録音しておくこともできます。つまり1次コンテンツはひとつでも、音声や注釈などの2次コンテンツはいくつでも用意できるのです。

生身の人間を前にしていたら、教育者は無意識のうちに教え方の対応は変えているはず。その文脈をしっかり反映できることが、WEB-COMの最大の特徴なのです。

「ここで使われている新技術は何ですか? と問われれば、『特にない』というのが答えです。WEB-COMを成立させているのは既存の技術の組み合わせなのです。でも、このプログラムがなかったら私の授業はe-learningコンテンツとして成り立たちません。だからWEB-COMに価値があると認識しているのです。」

この技術をスカイプでオンライン化すれば、ひとつの資料やプログラムを「ワイガヤ」しながらブラッシュアップできる可能性があり、実験も進めているそうです。

「自分がユーザー側にいて、どうしても作りたいモノがある、と感じたときに、新しいアイディアが創られるのです。困っていることがアイディアのタネ、になることを学生にもぜひ感じ取ってほしいと思います。」

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