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「人材育成」をみずから考え、行動する学生たちが得たのは現場で活躍するためのリアルな「モノ作りのスキル」

大学生はもちろん、修士課程から企業社会へ巣立つ学生も多い現代。そこで活躍できる能力を育成する教育の必要性が高まっています。その課題に取り組むため、学生が主体的に企画・運営を行った「PBL Mashup 2012」。そこでの学生たちの活動の様子、参加企業のコメントを紹介します。

2012年3月20日・21日の2日間にわたり、九州大学と筑波大学の学生有志による実行委員会主催の「PBL Mashup 2012」が、ア ドビ システムズ株式会社の共催により、品川区大崎ゲートシティにて開催されました。

 このイベントは、PBL(Project Based Learning)に取り組む全国の大学生たちが開いた交流会議「PBL Summit 2012」から連 続する日程での実施となりました。参加者は九州大学・筑波大学・福岡大学・会津大学の情報工学系に所属する修士課程の学生 42名と大学生3名、および多摩美術大学・武蔵野美術大学・女子美術大学の学生12名。全国から集まった大学院生・大学生に よって運営・実施された取り組みの概要と参加者の声をレポートします。

PBLを実践・体感する「PBL Mashup」

 PBL(Project Based Learning)は、近年特に情報系の分野で注目を集め、様々な大学の教育に取り入れられている教育手法です。受講者は複数人からなるチームによってプロジェクトの完遂(課題解決)を目指し、その過程で、フレームワークの設定・計画立案・フィードバックや対話・交渉・プレゼンテーションなど、企業における実務に必要な課題解決能力を習得できると考えられています。

 「PBL Summit 2012」は、このようなPBL教育を各大学で実際に受講している学生有志が集まり、学生の立場からPBLについて考え、今後のPBLの発展に貢献しようと企画したもの。続いて開催された「PBL Mashup 2012」ではその実習編として、多様なPBLを経験している各校の学生同士がチームを組み、互いの智恵と能力を出し合いながら「タブレットデバイス用のアプリ提案を行う」という課題に向けてグループワークに取り組みました。ただ企画するだけでなく、最終日にはその成果をプレゼンテーションの形でアウトプットし、IT企業の審査員によって評価・順位付けを受けるという実践的な内容です。

 「大学院進学率の高まりとともに、修士課程から企業に就職する学生もまた増えています。企業社会で活躍できる能力を育成する教育は、学生自身にとっても重要なテーマですが、まだ十分に提供されているとは言えません。そのことについての“学ぶ側の問題意識”が、今回のイベントの核になっています」と話すのは、「PBL Mashup 2012」の実行委員長を担当した九州大学大学院の直江憲一さんです。

「当初はシンプルなハンズオンをイメージしていたのですが、アドビ システムズ株式会社に協力をいただいたおかげで、より実践的で深い内容に近付いたと思います。特に美術系大学からも参加を得られたことで、現実のアプリ開発の現場により近い体験ができるはず。デザイン系の学生とエンジニア系の学生が互いにどんな刺激を与えあえるのか、とても楽しみにしています」と、開始前の期待を語ってくれました。

実行委員長の直江憲一さん

実行委員長の直江憲一さん。九州大学大学院 システム情報科学府 情報知能工学専攻 社会情報システム工学コースの修士1回生。この日のためにアドビ システムズが開催した類似のイベントにも何度も参加するなど、準備を重ねてきた

イノベーションが求められる時代。必要なのは技術だけではなく「UX」

 「Mashup」は20日の午後3時過ぎから、アドビ システムズ株式会社オフィスでスタート。筑波大学大学院の田中智章さんが司会を担当し、全体オリエンテーションののち、全員が1室に集まって特別講義が行われました。

 最初に登壇したのは株式会社セカンドファクトリーの有馬正人氏。テーマは「UXとイノベーション」です。市場の成熟により、閉塞感が押し寄せているハードウェア(モノ)側の事情、多様化する価値観に応える形で情報通信技術が急速に普及したソフトウェア(コト)側の事情を分析しながら、「既存の価値を新たに組み合わせることで、新たな価値観を創造する」イノベーションが、現代の製品・サービス開発には必要であることを解説。またイノベーションを起こすために技術は不可欠だが、それだけでは差別化要因にならないこと、そこに必要とされるのがUX(ユーザーエクスペリエンス)であることを説明しました。

 UXとは直訳すれば「ユーザー体験」、現在の情報工学の文脈では「これまでになかった、心地良い体験・豊かな体験」を意味する言葉として使われています。有馬氏はさらにUXについて具体的な製品や成功事例を多数紹介し、「人々の行動そのものについて考えること」が優れたUXにつながることを説明。またUI(User Interface)変遷の歴史を追いながら、今回のテーマでもあるタブレットデバイスのUIの位置付けを紹介しました。

 続いて登壇した同社の井原亮二氏は、タブレットデバイスの特性とソリューション例を紹介。その長所や適した業務、短所などをひもときながら、最終的なユーザー体験を構成する要素群「ユーザー/コントローラー/ハードウェア/ソフトウェア」の間にミスマッチやギャップがあると使いやすいシステムにならないこと、逆に言えば、そのギャップを埋めようとするところにイノベーションのチャンスがあることを、同社が実際に開発した製品を例にとって説明しました。

 受講した学生たちは「普段の制作でも何気なくUIやUXという言葉を使ったりしていたが、その深い背景を知ることができてよかった」「普段考えているのは、バグが少ないことやコストが低いこと、素早く動作することなど“どう動かすか”が中心。講義を聞いて“何を動かすのか、動かすことで何を創造するのか”も今後は考えなくてはと思った」と、これまでの自分になかった視点の広がりを感じ取っていたようです。

有馬正人氏 井原亮二氏

特別講義の講師を務めたのは、株式会社セカンドファクトリーの有馬正人氏と井原亮二氏。有馬氏はUXやUIについて豊富な実例を紹介しながら解説、続く井原氏もタブレットデバイス(スレートPC)を素材に、UXとイノベーションの考え方について講義を行った