Adobe Japan Education Vanguards (高等教育機関教員向けコミュニティ)

「人材育成」をみずから考え、行動する学生たちが得たのは現場で活躍するためのリアルな「モノ作りのスキル」

「タブレット×○○」をテーマに新しいUXを実現するアプリを企画

 続いていよいよ実習の開始。各校からの参加者は、それぞれの所属校や専門分野、学年に応じて10のチームに分かれ、初対面同士が協力し合いながらグループワークを開始しました。各チームメンバーには美術系大学生が必ず1~2名含まれ、デザイナーとエンジニアのコラボレーションに挑戦します。また議論をリードするファシリテーター役を務める学生も各1名参加しています。ゴールは「投資家向けのプレゼンテーション」。参加者は「アプリ開発を通して新しいユーザー体験を創造する会社」の起業を目標とし、「タブレット×教育」「タブレット×交通」「タブレット×農業」「タブレット×家電」「タブレット×ライフスタイル」の5テーマからいずれか1つを選んで具体的なアプリを企画し、ユーザーが得られる新たな体験価値を審査員の前でプレゼンテーションします。

 発表までに予定されている実習時間は、2日間合計でわずかに6時間。短いスケジュールのなか各チームには、2012年内の製品化という技術的要素をクリアすること、画面遷移図・ワイヤーフレームを含む画面イメージを作成すること、指定の構成要素を満たすプレゼンテーションを行うこと、また投資家向けという前提から当然、市場適合(売れるかどうか)や収益モデルも想定することといった、重いタスクが課されました。

 グループ分けの後、メンバーは早速作業を開始。それぞれ自己紹介や専門分野の説明、全体のスケジュール確認などを行い、その後はメンバーの個性に応じて様々なスタイルで企画会議を進めました。

タブレットというデバイスの性質からブレインストーミングを始めるチームあり、時間を決めて各自で「タブレットを使って自分がしてみたいこと」のアイデアを出し合うチームあり……。刻々と時間が過ぎていくうちに、早々とテーマを絞り込んで具体的な機能の考案を始めるチーム、テーマを決めたもののまだ全員が納得しきれないチームなど、進み具合にも差が出てきます。やがて実習は午後7時40分にいったん終了。最後に、各グループを巡回し議論の様子をチェックしていた井原氏、同社の福岡曜氏から、今後の進め方についてのアドバイスを受けました。

 井原氏のアドバイスは、ターゲットユーザーをもっと具体的に「どんな人が、どこで、どのように使うのか、どのように有効なのか」を深く掘り下げて考えること、収益や課金についての視点を持つことなど、実際にソフトウェア開発業務を行っている企業のマネージャーならではの実践的なものでした。

また今回の参加者は情報工学系の大学院生が大半を占めることもあり、福岡氏からは、エンジニアとはまた異なるデザイナーならではの問題解決手法や特長の紹介と、各チームのデザイナーの力をもっと生かすことについてアドバイスがありました。初日のスケジュールはこれで終了、解散となりましたが、各チームのメンバーの中には、その後も夕食を一緒にとるなどコミュニケーションを続け、議論を深めた人も多かったようです。

PBLの様子 PBLの様子

初日の会場はアドビ システムズ社オフィス。付箋を活用したりホワイトボードを使ったり、チームによってツールの使い方にも個性が表れた。アイデアを早速ビジュアル化するデザイナーも

PBLの様子 PBLの様子

各チームが企画会議を進めるなか、株式会社セカンドファクトリーの井原亮二氏と福岡曜氏も、それぞれの進行状況を尋ねたり、アドバイスを加えたりしながら巡回。最後に全体的な講評を聞いて、この日は解散となった

最後の1分まで力を注ぎ、専門家を前に新しい体験価値を提案

 2日目のプログラムは、アドビ システムズ株式会社の増渕賢一郎による講演から始まりました。増渕はマーケティング本部・教育市場部を担当し、ICTに関連する高等教育機関の現状に日々触れている立場から、「バックエンドを見ない消費者にとっては、UIが製品のすべて。デザイナーはもちろんエンジニアもそのことを理解し、ただコンテンツを作るのではなく、エクスペリエンスを作る意識が求められている」と、今後のICT製品・サービス開発の方向性について紹介。また会場の参加者へ、同社が全世界の学生・教職員を対象に実施しているコンペティション「Adobe Design Achievement Awards」への挑戦を呼びかけ、講演を終了しました。

 その後はビュッフェ形式の昼食をはさみ、プレゼンテーションに向けてのグループワークを再開。ユーザーの利用シナリオを検討したり、アプリのコンセプトについて再度討論したり、プレゼンテーションの流れや手法について検討したりと作業は次第に煮詰まり、やがて各チームともメンバーごとに作業を分担し、互いの進み具合を確認しながら、プレゼン資料づくりや画面イメージづくりに集中し始めました。そして作業開始から約3時間が経過したところで、グループワークの時間は終了。くじ引きでチームの発表順を決め、コンペティション形式のプレゼンテーションが開始されました。

 短時間の実習といえども、求められているのは「投資家を動かす新しいUX」という高度な内容。審査員席にも、クラスメソッド株式会社、株式会社セカンドファクトリー、アドビ システムズ株式会社と、いずれもRIAやUX・情報デザインなどを核に、先進的なシステム・アプリケーション開発を手がける企業のメンバーが顔を並べています。各チームは総勢60名以上の聴衆を前に、実際の使用シーンを演劇風に紹介したり、担当分野ごとにプレゼンターを交代したりと、互いに役割を分担しながら息の合ったチームワークを発揮しました。

 提案の内容は、テーマパークの「待ち時間」を「経験の時間」に変えるアプリを発表したチーム、ショッピングの「選ぶ」行動に着目し、買い物支援とコミュニケーション機能を実現するアプリを提案したチーム、外出嫌いの若者に出かけるきっかけを提供するツールを考案したチームなど、大学生に身近な「ライフスタイル」が優勢。その他にも実際に流通しているRFIDタグの調査結果をふまえたり、加速度センサーの感知からユーザーの情報需要を類推したりと、エンジニアらしさが光る発想もみられました。

増渕賢一郎による講演

2日目の始まりは、アドビ システムズ株式会社 増渕賢一郎による講演から。設立30周年、日本法人創立20周年を迎える同社の成長戦略を交えながら、今後の市場においてなぜエクスペリエンスが重要となるのかを説明した

PBLの様子

2日目は会場をゲートシティホールに移し、全チームで1室を使用。隣の声が聞こえないほど自分たちの作業に集中した

PBLの様子

エンジニアが多数を占めるチーム構成のなか、シナリオやコンセプトをイラストで表現したり、メディアサイズを考慮に入れたUIを提案したりと、デザイナーも次第に自らの存在価値を示した

PBLの様子

プレゼン資料をまとめる段階でも、シナリオの整理などに付箋が活躍

今日の出会いはきっかけ。大切なのは、フィードバック

 全10チームのプレゼンテーションのあとは、いよいよ結果発表。見事1位を勝ち取ったのは、「教育」をテーマに選び、複数人で使えることやカメラを使えることなど、タブレットデバイスの長所を生かした幼児の「歯磨き自立支援アプリ」を提案したチームでした。2位は、学生らしい生活実感とネットワーク技術を結び付け、友人と「冷蔵庫の中身をシェアする」というAR風のアプリを提案したチーム。全員の拍手のなか両チームのメンバーには、株式会社セカンドファクトリーとアドビ システムズ株式会社から賞品が一人ひとりに手渡されました。

 審査員を代表し、受賞した2チームや全体のプレゼンテーションについて講評を加えた、クラスメソッド株式会社代表取締役の横田聡氏は「具体的な技術を盛り込んだ提案や、統計データからユーザー人口の推計を示すなど実践的な観点を取り入れたプレゼンテーションを高く評価した」と説明。一方で、「友人同士の利用までしか想定できていないなど、ビジネス的な考えが浅い点は残念。このあたりをもっと掘り下げれば、アプリの機能や発展性が広がったはず」と示唆しました。3位と惜しくも入賞を逃したチームの提案は、子どもが自分で図鑑作成できるアプリ。以下、最下位まで順位を明らかにするシビアな発表となりました。

 その後は改めて、このイベントを成功させるために力を尽くしたゲストとスタッフの紹介が行われました。何カ月も前から準備を重ね、メンバーの意見を引き出し議論を活性化させるため2日間奮闘した、ファシリテーター役にも大きな拍手。最後に実行委員長の直江さんからは「出てきたアイデアは今日で終わりにせず、ぜひ最後まで製品化を目指して開発を続けてほしい」というコメントの後、「バックグラウンドも専門分野も異なる他校の学生と交流するという、Mashupの当初目標は果たせたと思う。参加者はここで得た刺激を持ち帰って、成長の糧にしてほしい」と締めくくりのあいさつが述べられ、2日間にわたる「PBL Mashup」の全プログラムが終了しました。

 初対面の時点では、互いに遠慮し合ったり探り合う雰囲気で接していたメンバーたちも、この頃には、一つのことを一緒に成し遂げたチームとして和気あいあいムード。遠方からの参加者の出発時刻が迫る慌ただしい雰囲気のなか、チームメンバーで記念撮影をしたり、今後も交流や共同開発を続けていこうと連絡先を交換する姿があちらこちらで見られました。

1位に選ばれたのは、歯磨き自立支援アプリを提案したチーム

1位に選ばれたのは、歯磨き自立支援アプリを提案したチーム。社会的意義やマーケットの広さが評価されたほか、コンセプトを端的に表すイラストレーションも好評だった

2位となったのは、冷蔵庫の中身をシェアするという一風変わった提案を行ったチーム

2位となったのは、冷蔵庫の中身をシェアするという一風変わった提案を行ったチーム。丁寧に作られたプレゼン資料の出来映えもよかった

デザイナーがインフルエンザで体調を崩し、2日目は出席できないというトラブルに見舞われたチームも

デザイナーがインフルエンザで体調を崩し、2日目は出席できないというトラブルに見舞われたチームも。残るメンバーの力を合わせ、立派なプレゼン資料を作り上げた