Adobe Japan Education Vanguards (高等教育機関教員向けコミュニティ)

受け手とのコミュニケーションをデザインする。
卒業後もステップアップできるプロを育てる情報デザイン教育

岡山市の中心で、創立から75年の伝統を持つ中国デザイン専門学校。ここでグラフィック表現を中心に学ぶビジュアルデザイン科では、産学協同プロジェクトによる実践的な経験を通じ、広い視野に立ったデザイン教育を行っています。単に絵柄やモノをデザインするのではなく、「コミュニケーションそのものをデザインする」ことを試行錯誤で学び、デザインの本質についてのより高い視点を学生に身に付けさせる、同校の情報デザイン教育の取り組みについて同科の熱田将弘先生、宮脇成也先生にうかがいました。

執筆/坂本綾(アリカ)

熱田 将弘 先生/宮脇 成也 先生

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2009年夏、同校は二つの大きな産学協同プロジェクトに取り組みました。一つは地元の大手百貨店・天満屋岡山店で7月24〜26日の3日間開催されたTシャツの展示販売フェア「人、街、地球を元気に。Happy T」への参加。Tシャツのデザイン・制作はもちろん、仕入れの手配やコスト計算、PR方法の提案や売場のブースデザイン、POP等のデザイン、当日の販売員までを学生が担当し、同校ならではの幅広い学科の力を集結したイベントとなりました。

もう一つは、岡山城で行われる夏のライトアップイベント「烏城灯源郷(うじょうとうげんきょう)」のデザインプロジェクト。隣接の烏城公園にロウソクの灯火を一つひとつ設置して描き出した「光のアート」を、岡山城天守閣から鑑賞するイベントです。そのデザインや演出などの企画を、ビジュアルデザイン科の全学年、計約70名の学生が中心となって担当し、8月12日〜16日の5日間、県内随一の観光地の夜を盛り上げました。

こうした学外プロジェクトへの取り組みの眼目は、来客やクライアントといった「デザインの受け手」とのコミュニケーションにあると言う宮脇先生。「そもそもデザインとは、受け手あってのもの。『自分が作りたいから作りました』ではなく、受け手が何を考え何を求めているのかを把握し、それに応えるものがないと成り立ちません。つまり、情報を伝えることに長けていないとデザインはできないし、そのためには高いコミュニケーション能力が必要なのです。それを実際の人と人との関わりの中から学んでいくことが、学生の『ものの考え方』の基盤を作ります。」

例えば「烏城灯源郷」プロジェクトでは、より洗練されたデザインにしたいと、花鳥風月を組み合わせたシンボリックなマークをデザインしたグループがありました。しかしその作品は、来客に「何だかよくわからないね」と言われてしまったといいます。そんな失敗から学生は「なぜ伝わらなかったんだろう」と考え、「人に見せる」という視点を学んでいくのです。

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8月12日〜16日の5日間、岡山城および隣接の烏城公園で行われた「烏城灯源郷」の様子。ビジュアルデザイン科全学年がグループに分かれて担当し、日替わりで2種・計10種の絵柄に合わせてロウソクの灯火を一つひとつ設置した。

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2009年7月24〜26日の3日間、天満屋岡山店で実施された「人、街、地球を元気に。Happy T」の様子。事前に学内公募で集めたTシャツのデザインを選考会で31種に絞り、制作・販売。クライアントである天満屋岡山店の方々を交えたプレゼンテーション大会も行った。

こうした「コミュニケーション」への関心を引き出すためにも、常に学生に投げかける授業を大切にしていると言う熱田先生。例えば「Happy T」フェアでも、デザインの前にまず「どうしたら売れるTシャツができると思う?」と学生に問いかけ、「わからない」という答えが返ってきたため、「じゃあお客さんの様子を見てみよう」と実際に売場を見学し、グループでデザインについて話し合うことから授業をスタートしたそうです。「入学当初を除き、学生にはすぐ答えを与えず、自分たちで考えさせるようにします。最初はすぐに『わからない』『できない』と言っていた子たちが、次第に、まず自分なりの考えで課題に取り組み、うまく行かなかったときに相談してくるようになる。3年生にもなると『先生は何も教えてくれん』と自分たちで答えを導き出すようになってきます。」

学生達は高校まで、先生が黒板に書く説明をノートに写し、記憶していく『勉強』しかしていません。しかしこれらのプロジェクトを成功させるためには、学生は自分から問題を発見し、それを解く方程式を作り、出た答えが正しいのか間違っているのかまで判断しなければらないのです。「こうした経験を経た学生たちは、本当に大人になる。実際に顔つきまで変わります。」と熱田先生。

学生たちの多くは、デザイン作品が作りたい、イラストが描きたいと、目前の「モノ作り」だけに関心を持って入学してきます。そのため、はじめは自分たちに与えられた課題に当惑すると言います。しかし卒業後には、その経験がデザイナーの仕事のエッセンスだったことに気が付くのです。

このような「教室」から外へ飛び出す教育を大切にする同校ならではの姿勢は、学習環境にも表れています。と言うのも同校の新入生は、一人一台ノートパソコンを購入し、全員がAdobe Creative Suite 4 Design Standardをインストールするのだそうです。その理由を「作りたいと思ったときに、どこでも作れる環境を調えることが、学生の能力を伸ばすうえで大切と考えるからです。」と宮脇先生は話します。「それに個人で所有していれば、卒業後もこれらのツールをそのまま仕事や個人制作に活用し、パワフルに動いていけます。」実は以前はパソコンは貸出制とし、卒業時に希望者に中古価格で販売していたのですが、結局ほぼ全員が購入していたため、現在の方式に切り替えたそうです。

「Adobe Creative Suiteは今やデザイナーにとって必要不可欠なツールです。初めて触れる学生も、その表現力を楽しみながら使ううちに、自然と使い方を身に付けていきます。」と熱田先生。「高いパフォーマンスに触れることで、表現の可能性も広がる。例えばIllustratorのグラデーションの美しさに驚いて、自分自身の表現能力まで広げた学生もいます。」他にも、Flashを活用することで一人でアニメ作品を完成させたり、Photoshopを使ってアナログとデジタルを融合した作品を作ったりと、個人の制作の幅を広げる可能性を持っている点も魅力だと言います。「ただし便利なツールだけに、フィルタやエフェクトに引きずられた安易なモノを作ってしまいがちでもあるんです。そこで、やはり自分なりの表現を大切にする『ものの考え方』を教育することが大切になってきます。」

確かに、テクニカルなスキルさえ身に付けていれば、見た目に素晴らしいポートフォリオもでき、就職に有利でしょう。しかし同校ではむしろその先の、卒業して社会に出てからデザイナーとして活躍し、ステップアップしていける「プロフェッショナル教育」に重きを置いているのです。「デザインの何たるかを理解せず仕事に就いても、結局『いいデザイン』はできないし、自分で上出来と思っているものも上司やクライアントに認めてもらえません。それでは、すぐ仕事が辛くなって伸び悩んでしまうことになるんです。」と宮脇先生は言います。

これらのツールは使えるのが当然、使えなければ仕事に支障を来す現代。コンピューターソフトを使いこなせることが一つの武器になった時代は終わり「デザイナーには改めて、情報の整理能力や構成能力が求められる時代になっています。」と熱田先生。「そのなかで学生の視野を広げ、自分は結局何を作っているのか、作っているものの向こう側に何があるのかを認識させることが情報デザイン教育であり、こうした『ものの見方・考え方』を育てることが、卒業後も社会で活躍していける学生を育てることに繋がると考えています。」

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