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Education Vanguards Interview 「小林茂先生」

写真撮影:zuckey

Gainer:デザイナーやアーティストの創作の自由度を高める
フィジカル・コンピューティング

「デザイナーやアーティストとエンジニアがお互いの仕事を理解して共通言語を持つことができれば、状況は改善するはずです」(小林茂准教授)。既存のインターフェイスの壁を越えるフィジカル・コンピューティングは、ブラックボックス化したコンピューターの活用範囲を拡大しました。そして、オープンソースハードウェアという新しい流れに乗って、一般ユーザーやクリエーターをハードウェアの“呪縛”から解放し、コンピューター活用の自由度を上げることで、世界の広がりや創造の楽しさにつながっていきます。そうしたフィジカル・コンピューティングの可能性についてIAMASの小林茂准教授に伺いました。

執筆:佐原 勉(株式会社ユニゾン)

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小林 茂(こばやし・しげる)

IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)准教授/ツールキットデザイナー(造語)

1970年愛知県名古屋市生まれ。1993年より電子楽器メーカーに技術者およびシンセサイザーのサウンドデザイナーとして勤務した後、2004年7月よりIAMASでフィジカル・コンピューティング等のレクチャーを担当。主な興味は電子楽器を含むユーザー・インターフェイス。最近の主な研究はプロトタイピングのためのツールキット「Gainer」および「Funnel」


導入ソリューション

導入目的

あらゆるデザイン分野のコンテンツ制作に対応した最先端クリエイティブツールが一つに統合され、連携性と生産性で可能性を広げられることから導入

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ハードウェアの“呪縛”からの解放

いつまで我々はハードウェアの“呪縛”に囚われていなければならないのでしょうか。“世界初のコンピューター”ENIACが誕生してから60年以上経つというのに、コンピューターは未だに家電や車並みの使い勝手を達成していません。確かに、かつて部屋を占領していたコンピューターはデスクの一端に載るPCにまで小さくなり、多くの人が利用できるようになりました。しかし、こうした成果と引き替えに、今やコンピューターの全体像を理解できる人はほんの一握りしかいないのが実情です。一般ユーザーやクリエーターはもちろん、エンジニアでさえ自分の専門以外のことはブラックボックス化しています。反面、ブラックボックス化したおかげで、複数のユニットを組み合わせるだけの“レディメード”システムであれば、比較的簡単に利用できるようになりました。

しかし、自分の思い通りのシステム、痒いところに手が届くようにコンピューターを活用するには専門家の手を借りるほかありません。大がかりなシステムであれば専門家の手を借りてもペイするかも しれませんが、小規模なシステム、まして自分の趣味や日曜大工的な楽しみ、クリエイティブ、教育現場などでの活用はコストが負担になりすぎます。また第三者が介在すると、自分が納得のゆくまで試行錯誤することもままなりません。誰でも気楽にコンピューターを活用できるインターフェイスはないのでしょうか。自分一人でコンピューターを自由自在に活用できれば、身の周りの世界はぐんと広がるはずです。

もちろん、専門教育を受ければある程度使いこなすことはできるでしょう。しかし、忙しい毎日を送っている人、理系が苦手という人にとって、そのハードルは高いと言わざるを得ません。そこで、ニューヨーク大学のダン・オゥサリバン教授がITP(Interactive Telecommunications Program)*で、人とコンピューターのコミュニケーションのあり方を考え直すフィジカル・コンピューティングを提案しました。既存PCのウインドウ、マウス、アイコンなどグラフィカル・ユーザー・インターフェイス(GUI)という制約を超えて、生活環境に沿った身体的なコンピューターのあり方を提案したのです。

フィジカル・コンピューティングとの出会い

1993年から2004年までローランドで電子楽器などのソフトウェア開発やサウンドデザインを行っていたIAMASの小林准教授は、「GUIだけで完結しないユーザー・インターフェイスをつくろうとした場合には、ハードウェアまで含めて考える必要があります。そのためにはある程度の電子回路やプログラミングのスキルが必要で、それがないと一定以上踏み込むことができません。しかし、そうしたスキルを身につけようとしても適切な教育プログラムがなく、入口で挫折してしまう例が多いのです」と、現在のコンピューター環境における非エンジニアの限界を話します。

「2004年3 月に発刊された『Physica lComputing』(Course Technology Ptr)を読んで大変興味を持ちました。エンジニア以外にもわかりやすいよう説明が工夫されていたり、すべてをマイコンで処理するのではなくPCの得意な処理はP Cで行う方法が紹介されていたりと、初心者にとって現実的なアプローチで語られていたからです。こうした語り口であれば、一般ユーザーやクリエーターでも、電子工作、プログラミング、センサーの使い方などを徐々に身に付けて自在にコンピューターを扱えるようになります。日本にはなかった発想です」と、小林准教授はフィジカル・コンピューティングに触発された当時を振り返ります。

現在のコンピューターの入力機器の原型は、30年以上前にゼロックスのパロアルト研究所で開発されたものです。ワークステーション試作機の入力機器としてGUI、キーボード、マウスが採用されました。その後、コンピューターは一部専門家のものから、一般ユーザーが使えるPCとして大衆化し、インターフェイスは洗練されたものの基本的な原理は変わっていません。

「人間のエモーションに合ったインターフェイスがありませんでした。私たちは毎日PCやケータイを便利なツールとして使っていますが、多くの人にとって中身はブラックボックスです。もっと使いやすくなるはずですが、エンジニアとクリエーターを結ぶ共通言語がなく、デザイナーはエンジニアが考えた中身を入れる外側をデザインするだけという受け身でしかモノづくりにかかわれないことが大半です。デザイナーやアーティストとエンジニアがお互いの仕事を理解して共通言語を持つことができれば、状況は改善するはずです。PCをブラックボックスとして扱うのではなく、電子工作やマイコンのプログラミングなどを通じて本質的な理解を深めることができれば、もっとよい提案が出てくる状況ができるはずです。それを実現するのがフィジカル・コンピューティングなのです」(小林准教授)

Gainerのキット(写真撮影:高尾俊介)

*1992年、ITPにフィジカル・コンピューティング学科を創設。フィジカル・コンピューティングとは身体とコンピューターとのインタラクションという考え方を拡張したもので、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアなど各地で広く教えられている。

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