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Education Vanguards Interview 曽和具之(そわ・ともゆき)

客観的な『自己評価』=リフレクションを支援する。
ドキュメンテーションが生む、力強く新しい学びの場

近年、「教える・教えられる」という従来の教育の枠組みを超えた新しい学びの場、ワークショップが盛んに行われています。そのなかで重要視され始めているのが、参加者自身が自分の行動を客観的に振り返る行動=「リフレクション」です。神戸芸術工科大学の曽和具之先生は、そのリフレクション支援のための記録・分析システムに取り組んでいます。「ここ数年のコンピューター環境の劇的な進歩が、マルチメディアを使ったドキュメンテーションシステムを支えてくれています」と曽和先生。有益なリフレクションを伴った新しい学びの場の実践のために、どのようなコミュニケーションデザインの手法が生み出されているのでしょうか?

執筆/永野 香(有限会社アリカ)

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曽和具之(そわ・ともゆき)

神戸芸術工科大学 デザイン学部
プロダクトデザイン学科准教授

1973年兵庫県生まれ。千葉大学大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(学術)。専門は情報デザイン、コミュニケーションデザイン。

論文

2002年 「都市域における住民の生活環境形成に関する基礎的研究-幕張ニュータウン新旧住民へのアンケートおよび参与観察に基づいて」(千葉大学)
2005年「Visualizing a design process by writing scenario」
(International Associationof Societies of Design Research 2005, Taiwan, R.O.C)
2007年「THE WORK SHOP FOR DESIGN EDUCATION PROGRAM (1996 -2006)」
(International Association of Societies of Design Research 2007, Hong Kong)

作品

2004-2006年「e-Motion Design Workshop @TONGGUAN, CHINA」(共同)
2007年「NHK日本賞におけるフォーマティブリサーチの記録」(共同)
「キッズデザインワークショップドキュメンテーション」(共同)
2008年「Interaction Design Workshop @TAIWAN」(共同)

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モダンな建物が立ち並ぶ明るいキャンパス。神戸芸術工科大学デザイン学部の曽和研究室では学生が次々と訪れては、曽和具之先生と快活に会話を交わしています。

曽和先生は今、同学部のプロダクトデザイン学科の学生や、他大学の研究者らと共同で、新しい学習環境やクリエイティブなディスカッションをつくるための記録・分析方法の開発に取り組んでいます。そのために精力的に行っているのが、ワークショップなど複数の人間がディスカッションする場をリアルタイムでドキュメンテーションする(情報を収集・記録し、整理・活用する)こと。記録の手段は、映像・写真・テキスト・スケッチ(絵)など多岐にわたります。このドキュメンテーションの第一の目的は、参加者自身が客観的にリフレクション(省察)できるようにすることです。

現在、情報デザインやコミュニケーションデザインを専門とする曽和先生ですが、じつは大学時代は理論物理を専攻、素粒子モデルの研究をしていたそうです。

「その頃から現象を追って『客観視』することの面白さを感じていました。その後大学院に進み、文化人類学や地域社会学、デザインを学ぶなかで、実社会で起こる様々な現象を映像に撮ってまとめ、分析するようになりました。その頃は『リフレクション』という言葉の意味もよくわかりませんでしたが、『文化人類学』『物理科学』『地域社会学』といった従来の学問の枠組みを超えて、現象が体感できる記録・分析のツールを作りたいという希望は、ずっと抱いていたんです」。

やがて曽和先生は2003年頃から、ワークショップの記録も取り始めます。ちょうどその頃から急速にコンピューター環境が整い、映像や写真、テキストを統合したマルチメディア表現がパーソナルコンピューターでも容易にできるようになりました。曽和先生の理想とするドキュメンテーションの姿が、手の届く範囲に見えてきたのです。

この流れのなかで、曽和先生が現在力を入れて取り組んでいるのが、ワークショップなどで行われている活動のドキュメンテーションです。

すみやかなリフレクションのために
リアルタイムで届けるドキュメント

「“party of the future”は、同志社女子大学の上田信行先生を中心に1991年から続けられているプロジェクトで、『未来のパーティをデザインしよう』というテーマのワークショップです。私はここで『ドキュメンテーション部隊』を、2〜4年生の学生と一緒に担当しています。パーティのなかで一体何が起こっていて、誰と誰がどんな話で盛り上がって、いわば人のネットワークがどう膨れ上がっていくのかということを、ビデオカメラ、デジタルカメラ、それからテキストエディタ、この3つを統合的に利用したドキュメンテーションによって、出来るだけリアルタイムで参加者に見てもらうためのシステムを作っているんです」

曽和先生は、ドキュメンテーションするための機器やソフトウェアの構成から、ドキュメントの表現方法、またそれを制作する担当者の構成・作業方法までを含むシステム作り=ドキュメンテーションデザインに取り組んでいます。

2007年・2008年と続けて行ったのが、定点撮影。建物の上部にある通路にカメラを据え、朝8時から夕方6時まで、10分ごとに10秒間ずつ、会場の一定の場所を撮影します。最終的には60フレームの写真がずらりと並ぶような印刷物に仕上げ、その場所でどんな人の動きが起こったのかが時系列で把握できるドキュメントにしました。これは同時多発的に出会いや話題が交錯するパーティという場で、参加者自身が、自分とは全く違った視点で、自己の行動の振り返りができるようにする、リフレクション支援の一つの手法として考え出したものです。

party of the future2007の定点撮影写真(documentation bookより)。テラスやスタジオなどに集う人々の動きを10分ごとにデジタルカメラで撮影、当日はその場でリフレクションできるように、撮ったそばから出力された

このように会場内で起こっていることをドキュメンテーションして、その場でドキュメントをプリントするのに加え、2008年にはWeb上にドキュメントを置き、会場設置のコンピューターから閲覧可能にする試みも行われました。

「参加者がそれぞれどこにいて何をしているのかを映像と写真で、またその状況を伝える文字情報も同時に映し出します。専用のミキサーを購入すると莫大な費用がかかるのですが、Webの環境をうまく利用して、マルチな画面が簡単にできるようになりました。

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