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Education Vanguards Interview 鈴木 康広(すずき・やすひろ)

ポケットから何かを取り出して見せる高揚感
技術を分かりやすく伝えながら新たな視点を
生み出すメディアアート

技術を使うことで、新しい表現手法を追求していくメディアアートの世界。
東京大学という技術指向が強い大学において、新しい技術をどのように見せたら、より分かりやすく魅力的に伝えることができるかというプレゼンテーションの表現部分に、メディアアートの表現手法を取り入れているのがアーティストの鈴木 康広 氏です。
鈴木氏はアーティスト、デザイナーとして活動しながら、大学では特任助教として、技術を分かりやすく理解させるための見せ方や、アートを通じた新たな楽しみや夢の創造、モチーフになっている物への新たな視点を生み出す部分の方向性に関する仕事をしています。研究者にとって、先端技術を意識せずに使えるように広く浸透させていくことは重要ですし、一般の人にとっても、先端技術を意識せずに当たり前のように使えることは重要です。技術色の強い先端科学技術研究センターのなかでも、メディアアートに関わっているのは鈴木氏だけ。メディアアートを使いながら、研究者と一般の人の橋渡しを担っている鈴木氏の取り組みを伺いました。

執筆/秋山 謙一(イメージアイ)

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鈴木 康広(すずき・やすひろ)

東京大学先端科学技術研究センター廣瀬・谷川研究室
特任助教

1979年静岡県浜松市生まれ。2001年東京造形大学デザイン学科卒業。
公園の回転遊具「グローブジャングル」を利用したインスタレーション「遊具の透視法」(2 0 01) の発表をきっかけに、国内外の多数の展覧会やアートフェスティバルに参加。
ArsElectronicaFestival'02(オーストリア)、DEAF_03(オランダ)、Liile2004(フランス)に招待出品。2004年1月に青山スパイラルガーデンで発表した「まばたきの葉」は、現在も美術館やパブリックスペースでの展開を続けている。
TAKEO PAPER SHOW 20 04「HAPTIC」、TOK YO FIBER '07「SENSEWARE」、三宅一生ディレクション「XXIc.21世紀人」など、デザインの展覧会やイベントにも積極的に参加している。

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作ったもので驚かせる楽しみが原点

「子供の頃から工作が得意で、作っただけで満足するということはなく、それを人に見せることが楽しかったんです。ポケットから何かを取り出して相手に見せたときの、一瞬の空白と、気付いて驚く反応が、今思うと自分のなかでは一番重要だったんです。その驚きや気付きの共有といったところが、楽しくてしかたなかったんです」

デザインやメディアアートという言葉を知らない幼少のころからモノ作りを楽しんできたと、鈴木 康広 氏は振り返ります。高校生の頃に遊びで作っていたものには、箸の頭を足の形に削っておき、箸先を動かして物を食べると、同時に反対側の足が歩いているように動くといったものや、石鹸を潰して手の形に固め直して、手を洗うと手の中に3つ目の手が現れたように感じられるといったものなどがあったといいます。身近なものをひとひねり工夫することで、実際に使った時に初めて気付いてあっと驚くようなものを作って、周囲をビックリさせるのが楽しかったそうです。鈴木氏がアートやデザインの方向に足を向けたのも、こうした自分の作りたいものを作るという体験がきっかけとなっており、大学受験まで美術教科書以外ではアートやデザインに一切触れることがなかったと言います。

「高校時代は理系だったんですけど、数学の問題を解くということが苦手だと気付いたのが、高3の夏だったんです。受験生なのに気付くの遅いですよね。そこから方向転換して大学を選択し始めたんですが、絵を描いたりモノを作る方向だったら数学の試験はないし、3歳くらいからやっているからキャリアは長いぞと思いました。これが、自分の経験や身体感覚と大学や学問の場がつながった瞬間ですね。受験にあたり、いちおうデッサンは習いに行きましたけど、ずっと予備校で美術の基礎からやってということはなかったんです」

鈴木康広氏が普段作業をしている研究室のある先端科学技術研究センター 14号館。時代を感じさせる建物だが、センサーで人を感知して、廊下の蛍光灯が点灯する仕組みもあったりする

「まばたきの葉(Blinking Leaves)」(2003)
Photo:Katsuhiro Ichikawa
片面に開いた目、裏側に閉じた目が描かれた葉が、木の幹を通って舞い上がる。くるくると回転しながら舞い落ちてくる葉は、パチパチと「まばたき」をしながら降り注ぐ。降り注ぐ光景が見たくて、ついつい葉をかき集めて何度も幹に差し込んでしまいたくなる作品

大学に入ってからも、鈴木氏のモノ作りに対する気持ちは変わることなく、「本当に楽しかった」と言います。

「大学では、他の学生に比べて自分が特別に秀でているとは思えなかったんですが、作ったものを人に見せた瞬間の『伝わる感覚』は幼少の頃からずっと持っていたので、その感覚のまま作っていけば何か面白いものができるかもしれないと感じていました。4年になると普通は就職活動に熱心に取り組んだりするんですが、卒業制作で作りたい作品があったので全力で取り組んでいました」

鈴木氏が公の場で初めて認められたのは、大学卒業後に応募した雑誌「デザインの現場」のデザインコンペ(2001年4月号)で、ペットボトルのキャップを鉛筆削りにするアイディアで1等に入選したことでした。

「送られてきた誌面を見て、嬉しさの余り卒倒(立ちくらみ)したんです。後にも先にも、卒倒したのはあの1回だけですね。アイディアというものは、最高に脳が喜んでいる時に思いつくものなんじゃないですかね。この受賞の直後にアイディアが閃いて、スケッチブックを題材にして翌年のコンペにも応募しました。中身の用紙の1枚1枚が、身の回りにある模様をエンボス加工で表現したものです。例えば、レンガ模様の凹凸をスケッチブックの用紙にうつしとっておけば、描いているときにレンガの壁もイメージとして立ち上がりますよね。文字通り「落書き帳」という作品です。この作品は、グラフィックデザイナーの原 研哉さんから賞をいただくことができました」

鈴木氏は、この2回の入賞を通じて原さんとも知り合えたことで、HAPTIC展への出展などを通してメディアアートとデザインの領域に同時に関わっていくことになります。しかし、鈴木氏の中では、この2つのジャンルの区別はなかったといいます。

「自分が楽しくて作っているものなので、アートとデザインを区別したことはないんです。より複雑なものであっても、作品にとって一番大事なところを人に伝える時に、『あぁ!』と言ってもらえるようなものが大切なんです。そういう作品のスタイルがいいものかどうかは別にしても、僕が作品を作る上で、このモチベーションは大事ですね」

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