

近年、情報デザインという言葉を聞くことが増えてきています。コミュニケーションを円滑にさせるための情報の表現という意味で使われている情報デザイン。日本電子専門学校でデザイン系の学科を受け持っている井上順子先生と小山内靖美先生の授業では、情報デザインの確かな力を身につけるため、日常生活のなかの出来事や人のふるまいを観察しながら、デザインに対する新しい視点や切り口を見い出し、より視覚的に分かりやすく伝えるためのデザインを実践するものとなっています。井上先生はグラフィックデザイン科に、小山内先生はWebデザイン科にと、所属する学科は分かれていますが、1997年のデザイン系学科の立ち上げ時から、情報デザインの重要性や情報の価値を見出すプロセスと表現の大切さに注目し、「情報デザイン」の授業をカリキュラムに組み込んできました。
専門学校教育で実務に結びつける情報デザインにアプローチされている先生方にお話を伺いました。
執筆/秋山 謙一(イメージアイ)
日本電子専門学校 CG・デザイン系
グラフィックデザイン科専任講師
1994年静岡大学教育学部卒業、1996年同大学院教育学研究科修了(教育学修士)。1996年より現職。専門は情報デザインおよびデザイン教育における発想支援。日本デザイン学会にて情報デザインに関する研究を継続して発表。同学会情報デザイン研究部会や様々なプロジェクトで高校の教科情報を対象としたワークショップ教材を提案する活動を行う。財団法人専修学校教育振興会 情報検定「情報デザイン試験」作問委員。著書(共著)に「新J検 情報デザイン試験テキスト」(実教出版刊)。
日本電子専門学校 CG・デザイン系
Webデザイン科専任講師
株式会社関電工 企画室にてプログラマーを経て、学校法人電子学園日本電子専門学校でシステムエンジニア育成の学科教員となる。1995年よりマルチメディア教育担当。2000年よりWe bデザイン教育を担当し現職。Web教材の開発に積極的に取り組んでいる。Adobe Flash 認定デザイナー、AdobeDreamweaver 認定デベロッパー、Macromedia Director 公認インストラクター。財団法人専修学校教育振興会 情報検定「情報デザイン試験」評価委員。
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日本電子専門学校と聞くと、電気・電子系や情報処理、ネットワークといった工学系のイメージが強いかもしれませんが、産業界のニーズにいち早く対応する学校として、1979年から、CGやデザイン、ミュージック、ゲーム、アニメといった分野での取り組みも始めています。井上順子先生と小山内靖美先生が所属しているCG・デザイン系では、ツールの使い方を教えるのではなく、実際に実務に応用できるような、より実践的な制作課題を数多く取り入れています。
「2人で情報デザインの授業を担当しているんですが、もともと私はデザイン教育、小山内先生はソフトウェア開発が専門で、お互い情報デザインが専門というわけではなかったんです」と話し始めた井上先生。「DTP制作が学べるデザイン系専攻のカリキュラムの草案で、情報デザインを盛り込んだことがきっかけですね。日本電子専門学校というと技術力が高い学校というイメージだったのですが、クリエイター教育においては技術力だけではなく、考える力や情報編集力が必要だと感じていました。そこで、新たにデザイン系の学科では、インタラクティブなコミュニケーションの表現力として情報デザインをカリキュラムに入れたいと思ったんです」
当時まだあまり知られていなかった情報デザインを、カリキュラムとして組み込むことについては、学校として新たなものに取り組みやすい環境であったことも大きいようです。小山内先生は、「『一歩前へ、そして世界へ』というキーワードで学校運営をしていますので、新しいことにはチャレンジしていこうという姿勢です。専門学校としてマルチメディア教育に取り組んだのも1993年といち早く着手しました。学校が新しい教育を始める時は必ず立ち上げスタッフとして関わっている感じがしますね。それは、自分にとっても良いチャンスを与えてもらっていると思っています」と話しました。
情報デザインの授業で使う教材や素材は、井上先生と小山内先生が話し合いながら作成している。息のあったお二人の姿が印象的でした
情報デザインを組み込んだデザイン学科が立ち上がった1997年ごろは、まだまだ情報デザイン自体が確立されていないような状況でした。井上先生は「手本となるカリキュラム像が見えないなかで授業をしていくのは、大変ではありましたが面白い経験でした」と振り返りました。当時から情報デザインに着目して研究をしていた多摩美術大学の吉橋昭夫准教授と一緒に授業を行いながら、情報を探索するためのインタラクションを、実際に教室から離れて生活空間の中から見出していくことに重点を置いていたそうです。
「最初は『百人町を歩く』をテーマに、自分の視点で風景を切り取り、伝えるために編集しようというものでした。しかし、学生にとっては『実務にどう結びついていくのか』といったことが分かりにくかったようで、それを理解させるために苦労しました。」(井上先生)
情報を整理して編集することに気付いた学生は、ユーザーの使い方に配慮したデザインを制作することができるけれども、考えることが苦手であったり情報を整理できない学生は、情報デザインの役割を理解できないままに制作をしてしまうようなこともあったようです。そこで、専門学校として実務に照らし合わせ、学生に理解させる部分を重視したシラバスや教材を検討していきました。
「情報デザインを先進的に取り組んでいる先生方の授業例も参考にしながら、課題制作のプロセスで『ユーザーを観察しましょう』『現場を体験してみましょう』『気付いたことから仮説をたてましょう』というように、より具体的にポイントを明示しました。」(井上先生)
「例えば、情報探索のインタラクションをデザインする際には、情報を探す時の日常的な、自然な習慣や振る舞いを観察して、そこからヒントを得ます。書店でお目当ての書籍を見つけるまでにどんな探し方をするのかということや、旅行代理店で卒業旅行を申し込むまでに店員さんとどんなやり取りが行われるのかといったことを、現場に足を運んで自ら体験し、そこから情報を整理してまとめていきます」(小山内先生)
また、授業では理解を促すための工夫として、課題を小さなステップに切り分けて設計しています。
「課題のテーマに基づいて、情報を必要とする現場に直接触れて『体験』し、人々の日常生活の行動から製品が使われている状況を『観察』。観察から気付いた点を掘り下げて『考え』、仮説を導き出し、『実際に作って』みる。検証を繰り返しながら完成させる。
このように小さなステップに分けて学習することで、情報デザインのプロセスを体験しながら、モノゴトをデザインするための道筋を理解していきます。
さらに、毎回の授業で学生に学び取って欲しい学習内容を潜めておくように工夫しています。例えば、最終的な成果物が動的なインターフェイスを実装する場合には、その前段階で「動的な表現から伝わること」を小課題で学びます。モノゴトの本質を動きで表現するために,単純な黒い丸をアナログで作り、紙の上で動かしながら『新鮮』といった状態を抽象化した動きのみで表現することから学んでいきます。