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信念を持って挑戦し、常に経験から学び続ける
プロフェッショナルのエンジンは「エンジョイメント」

医薬品メーカーのMR(医薬情報担当者)やシンクタンクでの勤務という、研究者としては一風変わった経験を持つ松尾睦先生。企業人として働いたときの出会いや経験が、研究にも反映されていると言います。その内容は「プロフェッショナルは、組織学習や経験学習によってどのように能力を向上させるのか」というもの。自身も一人のプロとして研究を続ける先生のお話には、変革の時代を迎えた企業社会のなかで、どのようにプロであるべきか、プロを育てるべきかについてのヒントがちりばめられていました。

執筆/坂本綾(アリカ)

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松尾 睦(まつお・まこと)

神戸大学大学院 経営学研究科 教授

1964年生まれ、東京都出身。小樽商科大学商学部を卒業後、製薬会社での営業勤務を経て、北海道大学大学院文学研究科で認知心理学を学ぶ。その後シンクタンクを経て、岡山商科大学商学部産業経営学科助手に着任。研究生活のなか東京工業大学大学院 社会理工学研究科 人間行動システム専攻に通い、博士号を取得する。その後の研究で英国ランカスター大学経営大学院のPh.Dも取得。独自の視点による研究内容は国内外で高く評価されている。2009年から現職。

1994年 岡山商科大学商学部 産業経営学科 助手
1995年 岡山商科大学商学部 産業経営学科 専任講師
1998年 岡山商科大学商学部 産業経営学科 助教授
1999年 東京工業大学大学院 博士(学術)
1999年 小樽商科大学商学部 商学科助教授
2004年 英国ランカスター大学 経営大学院 Ph.D.(in Management Learning)
2004年 小樽商科大学大学院 商学研究科 助教授
2007年 小樽商科大学大学院 商学研究科 教授
2009年 神戸大学大学院 経営学研究科 教授

「プロフェッショナルを分析する」プロに

営業・サービスに携わる「プロフェッショナル」や「組織」の研究を行っている松尾先生。マーケティングと組織論の境界領域に「学習」という観点を取り入れ、個人や組織のパフォーマンスが、組織学習や経験学習によってどのように向上していくのかを分析しています。

「学習について考えるきっかけの一つが、営業マンはどうやって成長するのか、優れた営業マンとはどんな人なのかという調査を行ったことでした。お客さんに会う時や提案の時はどういう点に気を付けるのか、成約に結び付けるコツは何かなど、営業には様々なノウハウがあります。それをまず自由記述やインタビューによって聞き取り、その内容を基に質問紙を作成して、すごい売り上げをあげている人とそうでもない人は、それぞれどういう行動を取っているのかというデータを集めたんです。」

すると、優秀な人とそうでもない人の行動の違いがはっきりとわかったことはもちろん、業種によっても行動が異なることがわかったそうです。

「例えば不動産店と自動車ディーラーを比べると、不動産店は『出会い勝負』型。初対面の日のうちに顧客の信頼を得て、一気に契約に至ることが多いのです。それに対して自動車ディーラーは『クロージング勝負』型。お客さんは様々なディーラーを回って検討するのが普通ですから、最後にどう背中を押して成約に至るかがポイントになります。同じ営業職でも、業種によってツボ、つまりスキルが違うことがわかって、『これはおもしろい』と思いました。」

神戸市のシンボルでもある六甲山のふもと。坂道で結ばれた緑豊かなキャンパスです

そこで始めに松尾先生が注目したのは、そのようなスキルを身に付けるのに必要な時間はどれぐらいかということでした。熟達研究の分野では、高い業績を上げられる「熟達者」になるには、最低10年の準備期間が必要だという「10年ルール」が定説になっているそうです。松尾先生は研究を通じ、営業の分野でも、スキルがパフォーマンスに結びつくようになるには10年かかることを見いだしました。

「ということは、その10年の間に何か大切な『経験』があったということです。そこから、単に時間の長さだけではなく、そこで何が起こったのか、どんな『経験』をしたのかに注目するようになりました。」

「経験」の中身を問うことが、「学習」への興味に

そんなときちょうど、ITプロジェクトマネージャーやコンサルタントなど、ITのプロフェッショナルの経験を調査する機会に恵まれた松尾先生。そこからわかったのが、同じITのプロでも、成長のプロセス、つまり『経験』の内容はまるで異なるということでした。

「簡単に言うと、プロジェクトマネージャーは『積み上げ』型。最初は5人のチーム、やがて20〜30人、100人……と少しずつ難しいタスクを担当していくわけです。一方コンサルタントは『修羅場』型です。ある程度独り立ちできるようになったら、ある日突然、ガケから突き落とされるように大変な仕事を一人で任されて、過酷な体験をすることで一段成長したという人が多い。どちらも、現在の自分の能力を超える業務を担当する『ストレッチ』によって能力を伸ばしたことでは共通しているのですが、その『ストレッチ』の度合いが違うのです。」

松尾先生は調査から、プロに至る「経験学習」のパターンは職種によって異なることを見いだした

その違いはどこから生まれるのか?それを考えるうちに、様々な人をまとめ上げるプロジェクトマネージャーの仕事と、顧客の問題を定義しそれを解決するコンサルタントの仕事では、必要なスキルが異なるためだということがわかってきたそうです。

「言い換えれば、各分野でプロフェッショナルに必要とされる『核となるスキル』が、その『経験の形』を決めるようだということがわかったんです。このようにして次第に、人は経験からどのようにして学んでいるのかを分析する『経験学習』の研究へと興味が移っていきました。」

このような「経験学習」の研究は従来、マーケティング論や組織論、心理学をはじめ、様々な研究領域に散らばっていたのだそうです。それらの領域を超えて、経験学習論を一つにまとめてみたい−−そう考えて研究を続けた松尾先生は、その成果を著書『経験からの学習:プロフェッショナルへの成長プロセス』として上梓しました。

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