Education Vanguards Interview 「上平 崇仁先生」

動機付けこそが学びの原動力

プロジェクト演習は基本的に学生主導で教員はサポート役に徹します。3年生ぐらいになると、多少技術的にわからないことがあっても自分たちで調べて立ち向かう学生が増えますし、また毎週のディスカッションを繰り返すなかで少しずつミーティング時の意見調整の仕方や議事録のまとめ方を身につけていきます。教員はサポートと言ってもただ見守って励ますだけではなく、目指すべきゴールへの方向に関しては議論の相手になってあげなければなりません。デザインもクオリティが低ければ、却下しつくり直させます。そのためのレビューが一番難しく腕が問われると ころです。

例えば、+Pluslistの場合、学生らはいろいろなことができるほうが便利だろうと、ついつい機能を増やそうとするわけですが、それが本当に必要なのかはよく吟味する必要があります。たいていの場合、わかりやすさと複雑な機能はトレードオフの関係にあるからです。その場ですぐ類似するツールやWebサービスの事例を紹介しながら、要素を絞ってシンプルにしたほうがユーザーにも長所が伝わりやすいことを説明し、「入れて眺める」という基本 的なことを徹底的に考えるように助言しました。

こういう助言はその分野に精通した知識も必要ですが、その学生が持っている能力と進行状況を見極めながらのハードルの上げ下げになりますから、なかなか形式知にはなりにくいところがあります。単発的なワークショップとは違って、持続的な立ち会いの中で学生らの理解の段階をよく観察し、飴とムチを適時使い分けながら高いレベルに誘導するのが教育者の専門性なのかもしれません。こういった考え方は、実は教育学部時代に学んだことです。まさか10年以上経過してから活きるとは思いませんでしたが・・・。

情報の世界は変化が激しく知識が固定されにくい分野ですが、そもそも人間は一生学んでいかなければなりません。短い大学の一時期だけですべてのことを学ぼうとしても無理ですが、人間にはコンピューターと違って自ら考えていく自己教育力があります。わけのわからない中で何が問題なのかを問い直し、実経験を通して解決する道筋を点検していく、そういった学びのサイクルはこれからも変わらないでしょうし、若いうちにそういった習慣を身につけることが必要なのだろうと思います。そしてそのサイクルを回すのが、内発的な動機に他なりません。

リチャード・ソール・ワーマンは「学習とは、何が面白いかに気付くこと」(『情報選択の時代』日本実業出版、1990年)と言いましたが、長く学んでいながら多くの学生はなかなかそこに気がついていません。一旦火が付いたら人間は驚異的な力を発揮するものですが、そのきっかけをつくってあげることは、やり方次第でおそらくどこでも可能なのだという確証を得ました。特にこれまで 全くデザインと接点もなかったシステムコースの学生らでも、デザ インに出会って強い関心を示すことは興味深いところです。

現在は担当する演習や講義では、学生自身が能動的に考え始めるような問題やその出し方に最も力を入れています(写真4/5)。 また2年生向けの演習では「情報の積み木」(2005年、2006年) 「EmotionalCALENDAR」(2007年)など、独自の演習を試み続けています。

写真4:講義の課題プリント:学食の使い方のダイアグラムをつくる(2年生前期、1週、A4用紙に手書きのみ)ただ学食を図解しなさいと書くのではなく、言葉が通じず困っている外国人を登場させ、作った図によって彼に感謝されるというシナリオを組み込んだ課題文。否応なく主人公にさせられてしまった学生らは、本来存在もしない外国人を助けたい一心で利用状況を必死で考えながら課題に取り組む。課題プリントのフォーマットも情報の構造に配慮してデザインされている

写真5:課題に対する学生の回答例

また普及してない技術にいち早く挑戦している、という特別な意識も、学生にとっては大きな動機になりうるものです。実はそういった狙いも少しあってこのプロジェクトのチームにはAIRを紹介しました。もちろん最初からAIRありきというわけではなく、彼らの目指すゴールの方向にこの新しいプラットフォームがちょうどかみ合うだろうと予測したからです。学生の場合、新しい技術であっても結局学ぶ負担は変わらないわけですから、心理的な敷居はそれほど高くありません。体力のあるのが若い学生のいいとこ ろで、目的さえしっかりしていれば多少の困難があってもタフに乗り越えていきます。

夏に最初のベータ版が出たばかりで参考書籍も出てない中、学生らはAdobe Labで英文の仕様を読み、デベロッパー向けサイトを回ったりして断片的な情報を集めました。そして無料のテキストエディタだけでコードを書き、試行錯誤しながらつくりあげていきま した。彼らを駆り立てていたのは、自分たちで考えたものを実現したいという欲求であり、未知のことに挑戦しているという自負だったと思います。

情報は出したところに集まってくる

最近は、情報技術の動向を調べるのではなく、知り合いの他大学の先生方と自主的に勉強会を開いて問題意識を共有したり、世界中で行われている情報デザイン教育の手法も研究しています。様々なノウハウを公開してくださる先輩方からは学ぶことばかりですが、同じようにこれからは自分も情報を出していく必要性を痛感します。教育のオープンソース化も取り組まれるようになってきましたが、今は自分で抱え込むよりも公開した方が得るものが多い時代になってきました。

情報は出したところに集まってくるという原則は不思議なことですが、ある意味で本当だと思います。そういった新しいパワーを、まずは教員が知っておくべきなのかも知れません。日本中の大学で教材や題材に悩んでいると思いますが、みんなで創意工夫を発表しあえる場があればもっと活性化するのではないでしょうか。さまざまな制約の中でどのような課題を組み立てるかは、学生以上に教員にとってクリエイティブで面白いことです。未熟な事例ながら、自分もウェブサイトやブログ等を通じて知見を提供できれば、そういった動きを是非全国の先生方とつくっていければと思います。

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