Adobe Japan Education Vanguards (高等教育機関教員向けコミュニティ)

Education Vanguards Interview 久保田晃弘 先生 多摩美術大学 美術学部情報デザイン学科 学科長・情報芸術コース 教授

工学と音楽を背景とした、アートとコンピュータの新たな関係

アートとコンピュータの関係は日に日に密なものになっており、美術教育の現場においてプログラミングが果たす役割は小さくありません。多摩美術大学の久保田晃弘先生は、工学畑で学んできた経験と、幼い頃から身につけてきた音楽的な素養をバックグラウンドに、アートとコンピュータの関係について教え、研究を続けています。

インタビュー/執筆:須貝 弦

メンバーシップの登録はこちら

久保田 晃弘(くぼた・あきひろ)

多摩美術大学 美術学部情報デザイン学科 学科長・情報芸術コース 教授

1960年大阪生まれ。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了、工学博士。アルゴリズム、インターフェイス、音響の3つをテーマに現在デジタル表現における素材論に関する考察と制作を行う。著書:99年『消えゆくコンピューター』/2001年『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック』『ポスト・テクノ(ロジー)ミュージック』他。

この事例のPDFファイルをダウンロード

大学時代は船舶について学ぶ

多摩美術大学の美術学部情報デザイン学科・情報芸術コースで教鞭をとる久保田晃弘先生。東京都八王子市の緑に囲まれたキャンパス、その中にある久保田先生の研究室にお邪魔しました。中に入ると、サウンドアーティストの肩書きも持つ久保田先生らしく、オーディオシステムや手作りのビニール管スピーカーが目に入ります。さらに窓辺には、癒しのためか、大きなビオトープの水槽が。

さて、工学部出身という異色の経歴の持ち主です。エンジニアリングを学んだ人物が、なぜアートを教える立場になったのでしょうか。

「電気や電子、化学など工学系にもいろいろありますが、その中でも船や飛行機など、総合的なことをしてモノを作っていくことに興味があったんです。大学では船舶工学をやっていました。最初はそれこそ、ドラフターで船の図面をそっくり写すところからはじまって、構造力学や流体力学を勉強しました。また、数値シミュレーションや人工知能の基礎も学びました」

船舶を選んだ理由を「点数が足りなかったから」と笑って話す久保田先生ですが、その選択は良かったと振り返ります。

「当時既に船舶は決して前途洋々と言える業界ではありませんでしたが、そのおかげで逆に自由度が高くて良かったですね。
これをやらなくてはいけないといった外圧のようなものもあまりありませんでした。夏休みには造船実習があって、相生にある石川島播磨の工場に行き、寮に泊まって溶接等の現場で実習をしました。『日本の造船技術は溶接技術だ』と言われていましたが、やはり現場の人は技術も体力もあるしすごい。そういうモノ作りの現場を見られたことは良かったですね」

数学的知識と音楽を統合できる仕事

さらに大学院に進み「高速流体力学研究室」で研究を続けた久保田先生。船のスクリューは負圧が原因で常温でも水が気化し

手前のスピーカーも、奥に見えるビニール管のスピーカーも、久保田先生の自作。作るのは楽しいと言う

て、多数の泡が生じます。これをキャビテーションと呼び、その泡がつぶれるときには、音が発生するのです。「それぞれの音には特徴があって、音を解析することによって、潜水艦の種類を特定できたりするのです」と久保田先生。このキャビテーションのシミュレーションを、コンピュータで行う研究をされていたのです。

「しかし、いろいろな物事を解析しただけでは船は作れません。そこには一種のミッシングリンクがある。解析と、デザインや設計におけるシンセシスをどうしたら結びつけることができるのか。やがてそのミッシングリンクについて考えるようになりました。1992年に『人工物工学研究センター』が立ち上がり、そのデザインサイエンス部門に移動しました。設計というものを軸に、エンジニアリングの中を横断できるのではないかと考えたんです。そんな中で、『設計』と『デザイン』の共通点や相違点について考えたり、コンピュータネットワークが出現してそのデザインに対する活用法を考えたり。そのあたりから、今の世界に興味を持ち始めたんです」

このように語りながらも久保田先生は、多摩美術大学を選んだ理由はほかにあると話します。それは、ピアノ。

「5歳からピアノを習っていて、高校のときにジャズ研に入りました。その後もアマチュアとして演奏活動をしたり、音楽雑誌に原稿を書いたりもしていたのですが、今思えば、それはあくまでも趣味と呼ぶべきものだったんです。しかし、MacintoshのCPUがPowerPCになった頃、パーソナルコンピュータでもリアルタイムの音響合成ができるようになりました。それまで専門の研究機関でないとできなかったようなことが個人レベルできるようになって、プログラミングと表現の関係が急にリアルになってきたんです。キャビテーションをやっていた頃は、音の研究もしていました。水の中の音をハイドロフォンで拾ったり、レーザー流速計のデータをコンピュータに送って、Basicで書いたプログラムで周波数解析をして……といったことをやっていました。そこで学んだことと、コーディングでアルゴリズミックに音楽を作ることを結びつけられないかと考えているときに、多摩美から声がかかりました。数学的な知識と音楽という、今までやってきたことがひとつに統合できたのです。それ以来、趣味と呼べるものがなくなってしまいましたが(笑)」

他のインタビューも読む

< Education Vanguards トップページに戻る