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Education Vanguards Interview 久保田晃弘 先生 多摩美術大学 美術学部情報デザイン学科 学科長・情報芸術コース 教授

美大におけるプログラミングの教え方

情報デザイン学科・情報芸術コースでは「オーディオビジュアル、クラフト、そしてデバイスとプログラミングを複合的に組み合わせて作品を作ること」(久保田先生)をひとつの目標に設定しています。そのためには、それぞれの分野を総合的に学ばなくてはなりません。モノを作り、空間を作り、音、映像、そしてインタラクションを組み合わせてひとつの「作品」と呼べるレベルまで仕上げることが、学生には求められているのです。

「学生に何を教えるのかと考えると、最後は作品制作ですが、作品には正解がありません。ですから、結局は自分ならどう作るだろうか——といったことから語り始めるしかないと思うんです。そのためには、学生の作品を見ることで、自分がどれだけ自由になれるかということが大事ではないかと思っています」と久保田先生は語ります。

さらに久保田先生に、多摩美術大学において「プログラミングを教える」とはどういうことなのか、伺いました。

「何年か前から、美大でもプログラミングやスクリプティング、いわゆるアルゴリズミックデザインやジェネラティヴアートを教えるようになりました。そこで意識してほしいのは、コードで表現をするとは一体どういうことなのか。同じアニメーションでも、FlashのトゥイーンとActionScriptではどう違うのか、ということですね」

工学部で学ぶプログラミングと、美大で学ぶプログラミングとでは、その学び方は大きく異なっています。

「デザイン・バイ・ナンバーズ*以降のプログラミングのポイントは、プログラミングを学ぶ順序が変わったということです。それ以前は、プログラミングを学ぶ際には、データ構造やアルゴリズムといった数理的なところから入るのが常でした。例えばソーティングのアルゴリズムであるとか、名簿管理のためのデータ構造などから入っていったわけです。それに対して、表現のためのプログラミングの教え方は、まずは点や線を描く、次に、その点や線を動かしてみる、そして動くことでどう見え方が変わるのかを考えてみる。その次はインタラクション、マウスやキーボードで点や線の動きや色を変化させてみる。そうした順序でプログラミングを学びながら、手と鉛筆でデッサンをすることとプログラミングで描くということが、どこが同じでどこが違うのかを内面から考えてみよう、というわけです」

コード(プログラミング)によって描画した久保田先生の作品が、研究室に掲げられている

プログラミングとリミックス

久保田先生は「プログラミングをするときは、イチからコードを書くな」と話します。それはつまり、先人たちが公開しているサンプルコードなどを上手く活用し、リミックスし、そこから新しいものを生み出すということ。「コードジョッキーなんて言い方もできると思います」と、久保田先生。「今日のプログラミングは、リミックスやサンプリングに通ずるところがあります。APIプログラミングによるマッシュアップは、アプリケーションレベルのDJということができます」

情報芸術コースのワークショップでは、サーキットベンディングと呼ばれるものも行われています。既存のおもちゃをハックし、分解したものを組み合わせて、新しい音を発する面白い楽器を作るというものです。

「リユース、リサイクル、リサンプル、リミックスは今日の文化において非常に重要な役割りを果しています。例えばDJ。CDの時代が来て、アナログレコードは死滅すると誰もが思っていた時代がありました。しかしそこに出てきたDJは、レコードでやってはいけないことをやったんです。針を飛ばすとか、手で回すとかいったことは、それまでのオーディオ機器においてやってはいけないことのはずだった。ところがそのやってはいけないことが新たな『表現』になったとき、レコードもターンテーブルも復活したし、新たなスキルや表現者が生まれてきたんです」

その一方で久保田先生は、学生たちに「デモではだめだ、作品にしなさい」そして「個性を出そうとするな」とも言うのだそうです。

「サンプルコードはデモでしかありません。デモでは作品にならないんです。デモを作品にするためには、思い込みでも良いから強い何かが必要で、そのためには表現することに対して、とことん考え抜かなくてはなりません。例えば、下手なサンプリングが、原曲に飲まれてしまうのと同じです。解析から創造へのミッシングリンクという意味でも、そこには、何とかして越えなくちゃいけない一線があるんですね。同時に、個性的であろうとしてはいけないとも言っています。個性的とか自分らしさというものは、出そうと思って出せるものではなく、むしろ隠そうとしても出てしまうものです」

「モノを作るときには模写も大事です。明治時代の日本の画家がパリのルーブル美術館で必死に模写をしたように、模倣と創造の狭間から見えてくるものが、コーディングにも必要です。工学では、便利とか安いとか、丈夫とか、価値観が外側にあって、定量化できる基準があります。一方で美術には正解がなくて、判断基準は内側にあるんです。だから『自分はどうしたいのか』ということを考え続けなければならない。一人一人の個性、逆にそこから逃れることはできないんです」

リミックスやサンプリングというものを重視する久保田先生の根底には「ファミリアなものをストレンジにしたい」という想いがあります。

「昔から、伝統的な工学教育に対する不満や疑問もありました。まず最初に枠組ありきなのです。『ウチの研究室はこんなに素晴しいことをやっている』という大義がまずあって、それをやりたいなら来なさい、と。通常の教育はストレンジなものをファミリアにするものですが、創造的な教育とは、ファミリアなものをストレンジにするものでなければなりません」

久保田先生をはじめとする教授陣による情報芸術コースの授業は、話を伺っていると楽しそうな雰囲気です。しかし、学生はやはり大変です。1年生で基礎を学び、2〜3年生ではスキルを学びながら、同時に作品制作を自分の力で行います。4年生の9月までには卒業制作がカタチになっていなくてはいけません。そこから、展覧会への出展やコンペへの参加などで作品を外へと出していきながら、バージョンアップを重ねるのです。逆算すると、3年生のときには何を作りたいかが決まっている必要があります。

「私は学生に対して、あなたは何をやりたいのか、何を作りたいのかと問い続けます。とことん自分で考えること。自分はどうすべきか考え抜く。『私は何をやればいいですか?』という質問が起きないようにするのが、僕らの役目とも言えます」

久保田先生のもとで学ぶ稲福孝信さんの作品。「コンピュータの身体は基板である」という考えに基づいて制作。この状態で「歩く」のだ

* デザイン・バイ・ナンバーズ(Design By Numbers)
前田ジョン氏(MITメディア・ラボ教授、メディアアーティスト)が公開した、スクリプティングによってグラフィックを作成するプログラム。または、同氏が著した書籍「Design By Numbers―デジタル・メディアのデザイン技法」(ソフトバンク刊)。

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