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Education Vanguards Interview 加藤 一葉(かとう・かずは)

それが分かってからは、研究材料として日記を付けたり、自分の行動を言語化して伝えるという活動も加わったそうです。「今のあなたの行動はなぜ?その絵を描いた理由は? と聞かれて最初は答えられず、一晩かけて、日記を書きながら自分がなぜその行動を取ったのかを考えるんです。そのことで、デザイナーである自分は、研究者である周りの人々と相当違う発想をしているんだということが分かりました。また、デザイナー・イン・レジデンス・フォー・リサーチについて、海外や国内の企業の事例を調べる研究も始めました」

その後、産総研内で部署を移動し、加藤先生は情報技術研究部門に移りました。認知科学や、コンピューターサイエンスを研究する部署で、実際の開発にデザイナーの立場で参加することになったのです。「そのとき手がけたプロジェクトの一つが、絵の組合せで文章を作るコミュニケーションツールのデザインや、それを構成する絵文字の開発です。これは、認知・知的障害者の方たち向けの防災用マニュアルを作るために、『地震になったので逃げる』といった内容を伝える目的で発案されたものです。80 0個ほどの絵文字と、絵の文法まで作成するというとても大変な作業でした。さらに、その開発の現場で研究者との間でどんなやりとりがあって、そのことがクリエイティビティにどう影響を及ぼしたのかという、デザイナー・イン・レジデンス・フォー・リサーチ研究も、同時に進めていました」

こうしたツール開発とコミュニケーション・デザイン研究の両面で、以前の部署にいたときの経験が役に立ったといいます。課題に対するアプローチ手法や作業を進めるプロセスが、デザイナーと研究者では実はまったく反対だということが認識できるようになったからです。

「例えば絵文字を作成する場合、研究者からはまず、インターフェースのデザインを作って欲しいと言われるわけです。インターフェースがないとプログラムが書けないというのが理由です。先の見通しを立てるために、画面の大枠でいいから欲しいと。でも、何のために、だれが使うのかも分からないままではデザインはできません。そのことを調べさせてくださいと説得するために、実際に施設を訪れて状況を把握することも必要でした。最初、被験者を、実際に障害者の方にお願いするのは困難だったため、文字の読めない幼稚園児を対象にしました。そして、ここは現場で見てきたこと、ここは専門家に聞いてきたこと、ここからが自分のデザインプランなんです、と分けて報告します。このプロセスが一番重要でした。『彼らはパソコンのボタンを押すこともできません。それならタブレットの方がいいのではないか』と提案するにしても、裏付けになるものを調べないといけないんです。打ち合わせも含め、あらゆる場面で撮影をして、説明のときにムービーを流したりしました。普通は文章で報告書を作りますから、こんな方法を使うのも、サイエンスの研究開発では珍しいことなんです。そのときの経験は、今でも生きていますね」。こうした知見も、アウトサイダー的な立場からプロジェクトに参加した加藤先生だから得られたものと言えるでしょう。

新設学科の立ち上げで研究者から教育者へ

一方、加藤先生がこれらの研究開発に取り組んでいる間に、母校・甲南女子大学ではメディア表現学科新設の動きが進められていました。やがて恩師・上田先生に声をかけられて、ここで加藤先生は教鞭を執ることになります。「実は学科の開設1年目は、まだ教室もできていませんでした。現在教室になっているこの場所は、開放されたコミュニケーションスペースで、学生がお昼ご飯を食べていたりしました。その横で、私は教室デザインのための採寸をしていたんですよ! デザインから壁の色までこなしたんですが、このときは店舗設計をしたデザイン会社にいたころの経験が役に立ちましたね。今でもこの教室は学生に開放していて、自由に課題ができるようにしているんです。うちの学科の学生はここに入り浸っています(笑)」

加藤先生自らデザインに尽力したメディア表現学科の教室。透明なアクリル板は可動式でパーティションとなり、片方で授業、片方で実習もできる

「教室がなかったころは、よく戸外の授業もしていました。校門を入ってすぐの池の脇に、サモトラケのニケの像があるんですが、『ニケの像のところで出欠票を集めるから、はい、それまでスケッチ』というふうに。学校のなかに、自分たちが新たに欲しい施設を考えるという課題を実施したこともあります。まずは、自分の好きな場所に行ってその場所をスケッチしたりじっくり観察して、行動を読み取るところから始めます。行動を読むというのは、自分がなぜその場所が好きなのかを見つけること。例えば見た感じがいいとか、友だちに会えるからとか。最終的にはグループで発表してもらったんですが、『池が気持ちをわびしくするからプールにしよう』とか『この眺めのいい一等地が空き地なのはもったいないからサロンにしよう』とか、さまざまな発想が飛び出してきました。発表方法もそれぞれ考えてもらって、ポスターや絵本にして。なかなか創造力豊かでしたよ」

芝生に囲まれた池のほとりには、サモトラケのニケと、フランスのロダン美術館から許可され制作されたというロダンの「考える人」の像が建つ

メディア表現学科の授業では、理論と実践の両方が重んじられています。1、2年次はメディア表現の方法を視覚表現を中心に、「視覚・言語・身体」に分けて幅広く身に付けます。学年があがると、ムービー作成やグラフィックデザインの制作など、デザインの実作業がどんどん増えていきます。「学生たちは大学にも『楽しい』ことを求めています。そして興味を持つのは、自分の身近なこと。ですからカリキュラムにも、学生の生活や大学・学科に関わることを積極的に取り入れて、遊び心も加えるように心がけています。例えば、バーチャルなデザイン会社を仮定し『クライアントはこの大学のメディア表現学科です。高校生に向けて、学科を紹介するための展示アイディアを提案してください』と設定します。あなたの作ったものが良ければ採用します、というストーリー仕立てにするわけです。この場合、課題は実際に大学の事務の方などに見ていただいて、採用となったらオープンキャンパスで公開しています。

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