学生の作品。メディア表現学科のカリキュラムを表したり、研究室を模式的に用い、先生たちの紹介をしたポスター
先生紹介のポスターから発展し、飛び出す仕掛けを作った冊子と、課題の作成時期などを記したカレンダー
「学科開設の1年目には、各先生方の紹介をするというテーマで、取材してムービーを作りました。でも、インタビューで2時間も先生のところにお邪魔したりして、さすがにご迷惑かなと思ったので、次の年からは大学やメディア表現学科の紹介をテーマにしています」。とはいえ、先生方も学生たちとコミュニケーションが取れることは、嬉しい経験だったと聞きます。「他人の目に触れたり、オープンキャンパスで発表されるなど形の見える評価を受けると、やはりデザインのモチベーションが上がりますね。そうなってくると、デザインをするのがどんどん楽しくなってくるんです。普通、知識というのは目に見えません。でも、モノを作って評価を受けると、確実にそれが分かる。その影響は大きいんです」
認知能力を育てるデザイン教育
また、コンピューターを使ったデザイン制作以外にも、発想力を伸ばすユニークな試みを取り入れているそうです。「これは、産総研時代にメタ認知の研究グループに教えてもらった手法なんですが、例えば紙コップに対し、飲物を入れる以外の使い方を10分間に思い付く限り挙げるような、いわば発想のマラソンをするんです。課題はその時々によって違いますが、授業の最初に制限時間を設けて、できるだけ数多く絵を描いたり、モノを作ったり。また、毎授業ごとに、どのように考えて作ったのか、出欠票の代わりにコメントを書かせています。同じ時間内でできる数が増えてくる学生は、コメントも客観的に振り返ることができるようになります。つまり認知能力そのものが高まっているということなんです。この能力の高まりが、デザインのスキルをアップさせることにもつながっていると思いますよ」と加藤先生。
加藤先生はほかにも、情報を伝える技術を獲得するとともに、自分を客観的にみるメタ認知能力のアップに役立つカリキュラムを組み立てています。『CG表現B』という授業は、自分に関わる、食のテーマを選んでダイアグラムを作り、最終的にはFlashでムービーを制作するという内容です。素材は携帯電話で撮った写真やMP3プレーヤーで録音した音声など、身近にある機器を使って簡単に入手できるものにして、敷居を下げています。実際に課題が始まったときには、3日間何も撮っていないので、忘れたの?と聞くと、面倒くさくて食べていない、という学生がいて驚いたりもしましたが(笑)。ほかにも、オムライスを作る工程を実家、寮、1人暮らしの学生で比べてみたり。1人暮らしの人は、とにかく時間がかかる。寮の人は、自分の部屋と台所をいったりきたり。実家の人は、途中でおばあさんが出てきてサラダを作るのを手伝ってくれたり。こんなちょっとしたことでも、自分の『当たり前』を客観的に認識し直すきっかけになっているんです」。
メディア表現の将来の展望
加藤先生の授業の基本にあるのは、デザインというものの本質である「いかに情報を伝えるか」の発想と技術を教えるということ。「アニメーションや映像表現など、制作の授業はほかにもありますが、そちらはストーリーを作ったりと自己表現なものがほとんど。情報を伝えるという目的の制作の授業を持っているデザイナーは私だけですね。メディア表現学科の学生たちは、多岐に渡って表現の幅が身に付いてくるので、卒業して社会で実務に入ると、きっと活躍すると思いますよ。たとえデザイナーにならなくても、企画力を必要とされている分野は多いですから。外に出ていった教え子たちと一緒にできることもいろいろあると思うんです。そういうつながりを広げていきたいですね。在学中の学生たちとも、教えるという立場から一緒にモノを作るという関係になっていければ。4年次くらいになれば、それができるのではないかと思っています」
2008年現在、1期生が3年次に進級したところ。まだメディア表現学科の卒業生はいませんが、近い将来、社会に出る彼女たちの活躍が楽しみです。「この4月から、京都工芸繊維大学で後期博士課程の研究も始めました。非専門家・一般の方を対象にした、創造力を伸ばすための教育プログラムを研究しようと考えています」。バイタリティにあふれ、アウトサイダーらしい視点と幅広い分野の知識、経験を持つ加藤先生。その教育への挑戦はさらなる広がりを見せそうです。


