撮影した動画はWeb上に設けたセンターを経由して、会場のプロジェクターに映し出します。同時に会場内のあちこちに置いたコンピュータでも、その映像が見られるようにしました。ネットを介せばどこでもリアルタイムでドキュメンテーションの結果が見られる状況作りを、実験的に行ったわけです。
マルチトラックの画像には、料理ばかり撮影したものや人の動きを捉えたものなど、さまざまな視点でパーティの進行を追う写真や映像、そしてテキストという複数の要素が同時に配信される。画面の楽しいデザインも、リフレクションを促すポイントだ
写真は7人のスタッフで手分けし、上空からのメタ認知の視点、主催者の視点、ゲストの視点など各担当者が異なる視点で人の動きを撮影しました。それらの画像を集めて、マルチトラック状にドキュメントに貼り込んでいったんです。実際のドキュメントの作成にはAdobe(R) InDesign(R)を使い、ドキュメントの幅はInDesignで作れる書類の最大の幅=約1.5mに設定しました。最終的に帯のようにものすごく長い書類となるのですが、貼り込んだそばからどんどん出力して、とにかくその場でリフレクションしてもらえるようにしました。
そして最後をしめくくるのが、5分間のリフレクションムービーです。これはパーティ全体のダイジェスト版の動画と、タイムラインに沿って並べた写真を同時に映し出すもの。様々な出来事が同時に起こるパーティの全容を確認しつつ、個々の人の動きも振り返るようにしました」。
今後はテキストと写真それぞれにタグやコメントを貼り、それをクリックすれば同じタイムラインで何が起こったのかが即時に把握できる、といったより効果的なドキュメントに進化させたいと考えているそうです。
『真の自己評価』に欠かせない、メタ認知による記録
—“全体の中での自分”と“プロセス”をつかむ
集団での学習や会議の現場環境では、一つの空間の中に複数の核が形成され、様々な議論や活動が同時的に行われます。それを効率的に記録し、さらに自己の立ち位置と全体で起こっていることの両方を把握しようとするのが、曽和先生のドキュメンテーションシステムです。その最終到達点は、自らの実践を客観視することで実現する新しい学びの場だといいます。
「従来の教育では、先生が課題を与えて指導し、テスト結果や作品、あるいはプレゼンテーションを見て、学生に外部的な評価を加えるというのが、一般的な手法でした。しかしこれからは、学生自身が自分を評価する、内的な自己評価をいかに行うかに重点を置いたシステムが必要だと思っています。例えば課題発見型の授業では、課題を発見する手順を教員が教えては意味がなく、どう課題を見つけるのか、というプロセスが非常に大事です」。自分、あるいは他人から見て、自分がいかに成長したか、その過程でどういう手順を踏んだのか、プロセス自体が評価できるようなドキュメンテーションを作ることが、新しい学習環境に結びつくと曽和先生は考えています。
「真に客観的に『自分』を捉える方法を、絶えず模索しています。例えばある会議の記録では、文字と図を組み合わせて表してみました。発話中のキーワードを書き、その言葉が連鎖を多く生んだ場合には接点を印して、いかに会話が膨らんでいったか、盛り上がったかを表したんです。こうした記録の取り方を学ぶと、自分がどう考えているか、ではなく、全体の発話状況のなかで、他人と自分の考えのどこが交差し、どこが違っているのかがわかってきます。
『自己評価』というとき、これまでは自分を中心に他人へのベクトルがあり、自分が外界にどう反応できたか、にとどまる評価でした。しかし、他人との同一性と相違点を客観的に把握する『メタ認知』ができて初めて、本当の意味での自己評価ができる。そういう『真の自己評価』を実現するための、ドキュメンテーションを目指しています」。
ワークショップでの発話の記録。あるキーワードが次にどんな発言につながっていったかを、文字と図でメモしている
「真の自己評価」はなぜ必要なのかーーそれは自己を客観的に振り返ることが、次の行動につながる力になり得るから。最近新しい学びの場として注目され盛んに行われているワークショップでも、これを一過性のものにせず学びを継続させるには、ドキュメンテーションによる振り返りが有効だ、と曽和先生は考えています。
「そもそもワークショップというのは動機付けで、学びのスタート地点であるべきなのですが、実際にはその場は盛り上がるものの、その後学びを継続させる働きかけがなかなかできない。リアルタイムでドキュメンテーションが行われ、その場でリフレクションできれば、自分がいかにその場を変えていったか、課題の解決に参加したかといったことが認知できます。それが次の行動への動機付けにつながるのではないかと。
例えば子どもたちを対象にものづくりのワークショップを行っていますが、そこで大切にしているのが、何回もリフレクションすること。子どもたちの場合とくに顕著なのですが、すぐに自分のことにのめりこんでしまう。ですから一回引いて、全体を見る時間と場所を設けるわけです。写真やムービーを見たり、後でお母さんに見せるリフレクションノート(自己評価ブック)を作ったりして振り返りを何度もします。ワークショップの時間内に『この時こんなことをしたね』とか『こんな考え方をしていたな』と思い出しながらメモを書き、さらに家に持ち帰ってそれを見ながらもう一度お母さんに説明する。これだけやって初めて子どもたちは、活動に参加した人がそれぞれどんなことを考え、そのなかで自分は何をどう表現したのかという、プロセス全体を理解するのです。
たんに成果物ができた、ではなく、その過程でどんな動機付けがあったのか、この形にするためにどういう手順を踏んだのか、あるいは手順に何を加えることでまったく別の最終成果物を生むことができたのか、といった『プロセスの理解』が大事だと考えています。そのことによって応用力が得られるからです。ワークショップを、一過性のものでなく応用力を身に付けるような意義深いものにしたい。そのためにはリフレクションを可能にするドキュメンテーションが、すごく大切なのです」。

