Education Vanguards Interview 曽和具之(そわ・ともゆき)

ドキュメンテーションの分析で
「ワークショップの洗練化」も目指す

曽和先生はさらに、このドキュメンテーションを、自己評価だけでなく、ワークショップそのものの洗練化にも役立てたいと考えています。

「ワークショップを洗練するには、やはりきちんとした評価システムが必要です。そうした評価機能まで含んだドキュメンテーションデザインをしていきたい。その会でどれだけ参加者が楽しんだか、ディスカッションがどれだけ活発だったか、キーワードがどれだけ出たか、活力のあるプロセスだったか、あるいはどれだけの人が作ったプロセスだったかといったことを、ある程度客観的なきちんとした指標で見ていけるようなシステムにしたいのです」。

ドキュメンテーションのスタイルがうまくシステム化されれば、より質の高いワークショップの組み立てが可能になるのではないかと、曽和先生は期待しています。

「ただ、ドキュメンテーションによってこれらの評価ができるかどうかは、収集したデータを分析していかないとまだわからない状態です。分析として一つ考えられるのが、どれだけキーワードが出てきて、そのキーワードから次のキーワードにどう移っていったかという、単語の出現率や配列、関係性などに着目する方法ですね。インターネットの世界では、検索技術などでもメジャーな方法だと思います。ヴァーチャルなインターネットの世界で使われている手法を、逆にリアルな会話の分析に使ってみたい。

分析ソフトを作りたいですね。ただ一つのソフトで全てがうまくいく、というものでもないでしょう。プラグインのような形で、いくつかのパターンを作っていくのがよいのではないかと思います。コミュニケーションの鍵が言語の場合もあれば、視覚がメインだったり、体感がメインだったりすることもある。その分析のためにも動画や静止画(写真)、テキスト、アイコン的なスケッチ(絵)など、様々な形式で記録をとっているわけです」

スケッチの一例として、曽和先生は子どもを対象としたワークショップで使っている、リフレクションのためのツール「リフレクションシート」を取り出し、説明してくれました。

「子どもに『今日一日どうでしたか?』と聞いても『楽しかった』『しんどかった』くらいしか言わない。じゃあ、その代わりにシールを使ってその時の感情を表したらどうだろうと考えました。さまざまな人の表情などを写したシールから、その時々に応じたものを選んで貼ってもらいます。『どうしてこの写真を貼ったの?』と聞いて、その時の感情を言語化させるツールです。じつはこれも選定が難しく、逆に表現を固定してしまうこともあるので、選択出来るシールの数を多くして、試しながらやっているんですが。

現段階では、分析に役立つ記録方法と、参加者のリフレクションに役立つ方法とはまだうまく合致していません。『前回はこの写真シールでやったけれど、今いちリフレクションがうまくいかなかったようなので、今度はこっちでやってみよう』といったように、まだまだ試行錯誤を続けている状態。分析と記録の関係も、今後は体系化していきたいですね」。

子どもたちはリフレクションシートに様々な表情の写真シールを、貼って自分のその時の感情を表す。写真シールは、どうすれば子どもたちの感情表現を引き出すのに有効か、模索しながら学生スタッフが考案・作成しているという

メディア環境の劇的な進歩と、学際の場が
「新しいものの考え方」を生む

社会的な学習環境の変化に応じた、新しい学びのスタイルの研究は、20年くらい前から徐々に取り組みが進められてきたもの。曽和先生が挑んでいる新しい学習環境作りへの取り組みは、研究の領域や分野としてはまだまだ発展途上のものだといいますが、一方で社会の目が向いてきた、という手応えも感じているそうです。

「『新しい学習環境作り』は複合的な研究で、一個人や一つの分野で理論が確立できるものではありません。私はそのなかの、ドキュメンテーションの具体的なデザインという分野に携わっているわけですが、今はひたすらドキュメンテーションを重ね、現象としての実験結果を発表している段階。これらの結果を利用して理論体系として組み立てる分野は、また別に出てくるのではないかと考えています。

これからは、記録の方法とワークショップの構成とを有機的に結びつけていく動きも起こってくるでしょう。それを踏まえて、自分自身の研究もリフレクションしなければいけないとも思っています。デザイン教育をする立場としては、まず『ドキュメンテーション』という研究分野を明確にし、協力して研究を進めることのできるチームを組織したい。これからの教育環境にはドキュメンテーションデザインができる専門の教員やスタッフの育成も必要だと思います。ドキュメンテーションを行うワークショップでは、いつも参加者と同数の10〜20名のスタッフ(学生)を用意します。膨大な情報が集まり、その処理は本当に大変なのですが、それをいかに効率的に行うか。また、その情報をいかに早くワークショップの現場にフィードバックするか、さらにどう分析していくかが課題ですね。

今はとても恵まれた環境だと思うんです。20時間以上の連続録画が出来るビデオカメラや、1000枚以上撮れるデジタルカメラ、すぐにみんなが共有出来るインターネットというメディア。いろんな場でこれらが活用されれば、たぶんものの考え方がすごく変わるのではないか。とくに集団でのものの考え方がすごく変わるんじゃないか、と思います。それを変えるための一つの指標を、ドキュメンテーションデザインの研究という立場から作っていきたいですね」。

曽和先生はより効果的なドキュメンテーションのあり方を考えるために、今回紹介したワークショップだけでなく、日々学内外のあらゆる場に学生とともに出かけ、ドキュメンテーションの実践を繰り返しています。大学のそばにある国営明石海峡公園における棚田の復元や、ドキュメンテーションしながらライブで行うラジオ番組……社会学、文化人類学、あるいは物理学など、これまで曽和先生が身に付けてきたあらゆる知識とアプローチ法を学生たちに伝え、重ねられるドキュメンテーション。そのなかではより良い記録・分析の方法を追求し、創意工夫しながら、それぞれ与えられた役割に懸命に取り組む学生たちの姿があります。

こうして生み出される、膨大な数のドキュメンテーションは、少しずつ、しかし確実に、新しい学びのシステムを形作り、知の枠組みすら変容させる力を秘めていそうです。

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