モヤモヤっとしたイメージを具体化する
白石先生は、授業の進め方にも特徴があります。
「一般的には、何かモノを作るときには、最初から対象ユーザーなどを想定した上で、明確なコンセプトやテーマを考えなさいと言います。しかし私の授業では、まず頭に浮かんだ(作りたいと思った)モヤモヤっとしたイメージをスケッチにしてみて、なぜそのモヤモヤっとしたものが思い浮かんだのかを紐解いていくうちにコンセプトやテーマが決まってくるというやり方をしています。ラフなスケッチからだんだん具現化していくなかで、なんでそうなったのかを振り返ることで、自分の興味、やりたかったことが見えてくるのです。そして、そこからコンセプトを立てるという方法論です。言葉から作るということは、言葉を借りてくることになるのではないかと思うのです。イメージや雰囲気からスタートして、本来の目的を目指してみると、例えばカメラはカメラのカタチをしていなくてもいいのではないか、携帯電話の持ちやすいカタチをもういちどゼロから考えてみようといったように、新しいモノが生まれるのではないでしょうか。」
bells in the water(管野創)
水に浮かぶ器をぶつけたり沈めたりすることで、投影される光が様々に変化する幻想的な作品
プロダクトデザインの正攻法とは、まったく逆の手法に、最初は戸惑う学生もいます。
「学生は最初“コンセプトが明確でないまま進めてもいいんですか?”って聞いてきますが、“いいんだよ”と言っています。グループワークでも、モヤモヤっとしたものから起こしたスケッチを見せ合って、なんでそんなアイディアが出てきたのか、なんでそんなカタチなのかといったことを話し合うだけでも、新しいモノを作るきっかけになります。そしてプロトタイプを何個も作りながらコンセプトに磨きをかけていくことが、より人間の発想に近いんじゃないか、と。」
白石先生は、自分の教え方や考え方について「陶芸に近い」と感じていると言います。
Drum Cycling(松田亮太)
4小節のドラムパターンをプログラミングし、自転車のペダルをこいでそのプログラムを再生するという装置。演奏者はまさに自転車のように装置に股がりペダルを回す
虫跡標本研究(平田茉衣)
虫そのものではなく、虫が動いた軌跡から虫の存在を感じ取るパラパラアニメーション装置
「テーマやコンセプト、作る意味を考えてモノを作ると、出来上がったものは、確かに意味のあるモノになる。一方、私の方法論だと無駄打ちも多くなるでしょう。最後までコンセプトが不明快なままモノができてしまうこともあります。それは、実社会では許されないかもしれませんが、プロトタイプまでは許される。失敗作を積み重ねる(そして上達する)陶芸に近いのではないかと思います。」
テーマやコンセプトといった言葉で縛られることなく、与えられたテーマに収まることもなく、自由な発想でモノを作っていく。その過程では失敗作もあるかもしれません。しかし、当たり前だと思っていたことをひっくり返すような、新しいモノが生まれてくる可能性も秘めています。そして、学生たちからそういった可能性を引き出していくことが、白石先生の役目でもあります。
「否定しない教育、ということをいつも考えています。最初にイメージソースを出す段階では、“これはうまくいかないよ”などと言ったりは絶対にしません。“どうしてこんなスケッチになったんだろうね”という問いかけはしますが、否定はしません。自分自身、学生の出すアイディアに対して“これはなんだろう”“もしかすると化けるのでは”といった期待を、常に持っていますから。」
もちろん、最終的にはテーマやコンセプトが明確で、それが機能やカタチと結びついているモノが求められます。
「落書きのようなスケッチの中からいくつかを清書していく過程で、色を付けたり、機能表示を説明させたり、人が使っているシーンを描いたりしていくうちに、意味付けがされます。人前でプレゼンテーションをする頃には、学生たちの中には確固たるコンセプトができています。こちらから“なんで作りたかったの?”と質問したとき、コンセプトが返ってくれば成功です。ただ、中には曖昧なままの学生もいます。では、なぜ曖昧なのか、カタチが甘いからではないか、そしてカタチがかわるならコンセプトにも影響するのではないか、などとグルグル回りながら、バージョンアップを重ねていきます。」
白石先生の授業は、ハウスデザイナーが直近の業務とは別に、たくさんのスケッチを書き、ブラッシュアップして、10年、20年先の未来のプロダクトを模索する作業に近いのかもしれません。このような訓練を受けた学生たちが企業の中でデザインをするようになったとき、どのような能力を発揮するのか興味深いものがあります。
「学生たちが企業に出て行ったとき、方法論からもう一度考え直してみようと言える存在になってくれれば面白いなぁと思います。モノづくりには当たり前とされる手順、正攻法のようなものがありますが、その正攻法自体に疑いを持ってみる、それ以外に正攻法はないのか、もっと今までに無いモノが作れるのではないか、そういう考え方を学生が持ってくれればうれしいです。」


