技術を分かりやすく伝えるメディアアート
そんな鈴木氏は、現在、東京大学 先端科学技術研究センターで研究と創作活動に取り組んでいます。東京大学に所属するきっかけとなったのも、「メディアアーティストの岩井俊雄さんが、廣瀬通孝先生によって先端科学技術センターの特任教授に招かれた時に、助手を1名雇えるからと推薦してくれたことがきっかけ」と話されますが、元を辿れば、大学の卒業制作が岩井さんと出会うきっかけにもなったようです。
「NHKの番組『デジタル・スタジアム』のスタッフが卒業制作を見て声をかけてくれたのですが、その際に、パシフィコ横浜で岩井俊雄さんが新作展をしていることを教えてもらいました。当時はデジタルアートに詳しくはなかったんですが、大学の実験映像の授業で、岩井さんの作品は知っていました。当時はパラパラマンガにアイディアや発想のエッセンスを詰め込んだりしていたのですが、それを持って制作展の会場に岩井さんを訪ねたんです」
このことがきっかけで、岩井さんの手伝いをするようになり、メディアアートに深く関わるようになっていきます。公園に設置されている回転遊具「グローブジャングル」を利用したインスタレーション「遊具の透視法」でデジタル・スタジアムのグランプリを受賞した後は、オーストリアで開催されたArsElectronicaFestival'02などにも出品。その後デジタル・スタジアムのキュレーター、そして東京大学 先端科学技術センターの特任助教へと、仕事が広がっていきます。
「遊具の透視法(Persepective of the Globe-Jungle)」(2001)
Photo:Rinko Kawauchi
子供たちが昼間遊んでいる風景を、回転するグローブジャングルに残像現象を利用して投影した作品。夜間そこにいないはずの子供たちの姿が浮かび上がり、夜の公園に楽しい笑い声が響きわたる。子供時代にグローブジャングルで遊んだ記憶が鮮やかに蘇ってくる
「当時のメディアアートは展覧会などの室内で見るものが前提だったので、街のなかでメディアアートを体験してもらうということは大変なことでした。岩井さんはいち早くメディアアートのパブリックスペースへの展開やメディア技術を生活の中に活かしていくことに興味を持たれていて、僕を大学のプロジェクトに呼んで下さったのだと思います」
現在、東京大学での所属は、先端科学技術研究センター廣瀬・谷川研究室。普段は目黒区駒場にある研究室を拠点に活動されています。鈴木氏の研究室は、歴史を感じさせる茶色のタイル張りの建物内にあります。研究室からは、中庭と中庭を囲むように植えられた並木を見渡すことができ、静かに過ぎていく時間が感じられました。
鈴木氏の研究室の外は、広い中庭。中庭を囲むように植えられた木々が、時間の流れをゆったりとさせているようだ。時間を忘れて、作品作りに没頭できそうな環境だ
「先端科学技術研究センターに入ってから、研究そのものが重要なのはもちろんですが、研究がいかに魅力的であるかを同時にプレゼンテーションしていくということが、とても重要なことなのだと解ってきました。今は、デジタルパブリックアートというテーマで、メディアアートやデジタルアートにテクノロジーを積極的に活用していく取り組みをしており、センシング技術やデジタルID技術などを専門とする4つの研究室が関わっています。メディアアートは室内での表現活動は十分に行われてきていますが、デジタルパブリックアートとなると、技術的にはハイレベルで最先端なものを使用しなくても、屋外でメディア技術を生かせる状況を作ることが重要です。公園や広場をどう魅力的な空間にするか、より全身の感覚に訴えていけるようなありかたを考えています。単にディスプレイに画像を表示するというものではなく、空間そのものがディスプレイになっていくことで人の感覚を満足させていくようなイメージですね。それには空間性だけでなく、モノとして存在する実体性、自然にやりたくなって参加できる自己参加性なども重要です。僕は、研究テーマをどのように見せたら、より分かりやすく新鮮に伝わるかという部分を担当しています」
作品性をもったデジタルパブリックアートとして仕上げていく段階では、それぞれの研究室の技術をプレゼンテーションしていくうちに、表現の方向性がぶれやすくなってしまうことがあると、鈴木氏は言います。鈴木氏は、展覧会での作品の見せ方だけでなく、それぞれの研究室においての研究内容の相互理解といった面も含めて、技術の特徴を伝えるための表現のあり方を提案する役割を担っています。プレゼンテーションの見せ方という部分において、鈴木氏のアイディアが潤滑油になってお互いに理解しやすくなっているようです。
「展覧会で楽しんでいる人たちの様子を研究者の人たちと一緒に見ることで、研究室間の連携や話し合いもスムースにいくようになりましたね。他の先生方にも、研究者としての技術的な視点だけでなく、プレゼンテーションの意識を共有できるようになってきました。僕もそれぞれの研究室の技術に対する認識が深まりました。相互に理解を深めていくことで、新しい試みを実現していくためのプロセスを共有できる態勢になってきたと思います」


