企業デザイナーの道を蹴って大学へ
ところが、岡崎先生はサラリーマンという道を選びませんでした。
「恩師に小一時間説教されました。“企業の中で制約を受けながらデザインをしても、発展がない”と。そして“大学の教員を目指せ”と言われたのです。」
その“説教”を受け入れた岡崎先生は、筑波大学に進むことを決断しました。このことが、岡崎先生の方向性を決定づけたと言えるでしょう。
「それまでは、デザインといっても椅子や照明など、アナログなことばかりを考えていたのです。ところが、ちょうどその頃、現在は札幌市立大学・学長の原田 昭先生が、インターフェイスデザインの研究を始められた。これには大きな影響を受けました。」
デザイン学の修士課程を修了の後、岡崎先生は東北芸術工科大学・デザイン工学部・生産デザイン学科・助手を経て、1997年から筑波大学の感性評価構造モデル構築特別プロジェクトに専従研究員として携わります。そして「感性科学」分野における博士号の第一号となったのです。
小児医療でのデザインの必要性に気づく
岡崎先生とチャイルドライフデザインの関わりは、先生のお子さんが筑波大学の附属病院に入院されたことがきっかけだったと言います。
「自分の子どもが実際に入院してみて、はじめてこの分野に対するデザインの必要性に気がついたんです。病院は暗いところですし、閉ざされたシステムだということがわかりました。例えば、入院中の子どもとお母さんがいっしょに食事をするといったことすら、多くの病院では不可能だったのです。」
子どもの頃、入院した経験のある方はいらっしゃるでしょうか。入院生活はとかく塞ぎがちなもので、子どもとなればなおさらのことです。
「これはダメだ、と思いました。しかし、外から変えていくのは難しい。そこで附属病院の“目安箱”に学内の教員であることをあえて明示して投書をして、それを足がかりに病院のシステムを改善するよう提案をしたのです。すると、どんどん対策がとられて、改善されていく。やはり中から、現場から変えていかなければいけないという思いを強くしました。」
CVカテーテル用のプレパレーションツール「KIZUNA」
ベッドサイドを賑やかにするクッションは、遊びの要素の他に、子どもの怪我を防止する目的もある
デザインで解決できることがある
岡崎先生は現在、プレパレーション(入院生活や手術における心の準備)のためのツールや、入院生活の苦痛を軽減させるツールの研究を行なっています。子どものストレスをいかしにして解消するかということに、向き合っているというわけです。とくに現在は、非接触型アイマークカメラで子どもの視線と看護師の視線をシンクロさせて、定量化することに取り組んでいます。
動作解析システムを使った実験から分かったこととして、「子どもがお母さんといっしょに、看護師さんから説明を受けているとき、“わかった”というときは、看護師さんを見ることもあれば、お母さんを見ることもある。しかし、不安に感じているときは、必ずお母さんのことを見るのです」と、岡崎先生は話します。
プレパレーションという行為自体は、以前から小児医療の現場で行なわれています。しかし「そのための専用ツールがなかった」と、岡崎先生は言います。各病院で、現場で作った手作りの資料はあっても、それ以上のものはほとんど無かったと言います。それだけではありません。
「小児看護学会の発表を見ても、(子どもの不安を取り除くためのツールは)布絵本だったり、エプロンシアターだったり……つまり全部手作りなんです。もちろん、皆さん頑張っているし、自分たちで作りたいと思っている。しかし、ここにデザインが入っていくことで、もっと良く変えていくことができるのではないかと思いました。」
拓殖大学に移られてからの岡崎先生は、北里大学病院の現場に対して、積極的にアプローチします。当時の師長さんが「ちょうど、プレパレーションのためのツールを欲しがっていた」(岡崎先生)ということもあり、インターフェイスを切り口として、ツールの研究と開発が行なわれていくことになりました。


